アミナス教使徒討伐 1

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アミナス教使徒討伐 1

ルーファス殿下からの命令は極秘任務だ。 つまり大々的に動けない。 フレッサは、エペルが言う怖い人が来る日に備えて、極秘に動く者を揃えなければいけない。 エペルを捕縛して、ルーファス殿下に差し出しては『護る』事は出来ない。 しかしフレッサはプテリュクスと情報を共有していた。 第1騎士団のカーチス・ザバス卿。彼はレオノーラをルーファス殿下の護衛にする為に策を講じた者でもある。そして彼はプテリュクスと協力体制にある。 プテリュクスを介して、カーチスに連絡をし、極秘に騎士を配備してもらう。 そう考え、伝文を出した。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 翌朝、エペルの家に流浪の民がよく身に着けるマント姿の男がやってきた。 最初に玄関に駆け付けたフレッサは、ドレスの下のガードルに仕込んでいたナイフを手にし、様子を伺う。 見覚えのない、黒髪を三つ編みに編んだ背の高い男だ。 しかし隣にやってきたレオノーラに制された。 「…何故ここにいるか分からないが、知り合いです。武器を引いて。」 「…いえ、このままの護衛の許可を。何も無ければ切りかかることはありませんので…」 レオノーラの言葉でも引かないフレッサに、小さな溜息をついて仕方ないと諦める。しかしレオノーラはフレッサを自分の後ろに引かせた。 そうしていると、玄関の外から声が掛かった。 「レオノーラ孃。俺が分かるな?」 「…はい。ロン様。どのような用向きで?」 玄関の扉を開いて、レオノーラは目の前の男、ロンに声を掛けた。扉が開いたので、ロンは階段を上がってくる。 フレッサはすぐ様ナイフを収めた。 レオノーラがロンと呼んだ。初見だが、この人はスピアーノ王国の元国王。ロンバート・クリューソス・スピアーノ陛下だ。 跪こうとするフレッサを、ロンはレオノーラに気付かれないように少し下方に手を振り制した。 そしてフレッサは的確にソレを読んだ。 レオノーラはロンの正体を知らない。ではフレッサも跪く訳にはいかなかった。ロンが、今は正体を明かさないのであれば従うべきだ。 プテリュクスは、レオノーラにティグラートが関わる環境を知らせないように心を配っていた。それにロンの正体も含まれるのであろう。 とはいえ、ロンが自らここに来たということは、そんなに長く自分の正体を秘匿するつもりは無いのかもしれないが。 「…伝令役だ…。ちょっと中の女と昔関わりがあってね。保護の為に来たついでに、使いっ走りだよ」 ロンは溜息をついて話した。 「…エペルと話したい。危害は加えない、保護目的だ。中に入りたいので、エペルに許可を。」 ◇◇◇◇◇◇◇ 見知らぬ男性の来訪と思い、部屋の奥に隠れていたエペルにレオノーラは話をする。 「私が知っている『ロン』と呼ばれる男性です。エペルさんもご存知のようにロンさんは仰ってたのですが…」 レオノーラに説明され、手を引かれて怯えながら玄関で待つロンの前までエペルはやってきた。 「…えっ?…みっ…水色の魔術師様…?…で…で…でもお姿が…」 エペルが言う。昨夜話してくれた『水色の魔術師』はロンだったか。レオノーラは理由もなく納得した。特に魔力量の面で。ロンは水属性の魔力をよく使用している。他の属性もありそうだが、だから水色の魔術師なのだろう。 エペルは店内のテーブルの所にロンを案内する。 「久しいな。覚えてくれていて助かった。」 勧められた椅子に座り、ロンはエペルに言う。 少し疚しいエペルは黙って下を向き、目線だけロンに向けている。 「…君がフレッサ孃だな。君の上司から話は聞いている。」 詳しくは話せないロンは、フレッサをじっと見る。 しかし察しの良いフレッサには分かるはずとロンは思っていた。先程のロンの考えを察した事もあり、短なこの時間で確信した。 フレッサの上司は、プテリュクスだ。プテリュクスから内偵・護衛でレオノーラに付いていると聞いているのだ。 「…先ずはエペル…。君の事だ。」 「…ご…ごめんな…さい…」 エペルはロンが自分に向き直って話し出すと、少し涙目になり謝りだした。 「…謝るような事をしたと自覚があるなら良い。しかしエペル…私たちは、君が何に関わっているか知っている。そして君を護る為に私は来た」 ロンの言葉にエペルは驚く。 それもそのはず。ロンは突然やってきていきなりエペルを護ると言い出したのだ。てっきり師匠と同じように、今回こそ殺されてもおかしくないとさえ考えていたのだ。 「…あの時は、私にも君の保護に手を回す余裕が無かった。それが此度の事に繋がる要因の一つとなった。」 そう言うと、ロンはエペルに向かって頭を下げた。 それにエペルは酷く動揺して言った。 「…おっ…お止め下さいっ…魔術師様っ」 「…ロンさん…詳しく伺ってもよろしいでしょうか?今回の騒動に繋がることなら知っておきたいのですが…」 レオノーラはロンに尋ねた。 頭を上げたロンは、あぁ、と返事をする。 「…まぁ、ヴィペールの話が出た時点で覚悟の上だ。レオノーラ嬢…君は私の最大の弱点を既に知り得ている。もう少し知られても大した問題でもない。」 そう言うと、ロンは認識阻害の眼鏡を外し、テーブルに置いた。
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