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アミナス教使徒討伐 2
認識阻害の眼鏡が外されると、ロンの髪の毛の色が灰色に水色がかった色に変化し、左の瞳の色が水色から白銀へと変わった。
「…認識阻害の眼鏡だったのですね…」
レオノーラがロンを見て言う。
「…マオを隠す為には、私も姿を変える必要があったからな。」
ロンはレオノーラを見つめる。その視線に、レオノーラも姿勢を正す。ロンの纏う雰囲気が明らかに変わった。市井の、少し砕けたものでは無い。高貴な者の纏う雰囲気や姿勢。明らかに何時ものロンではなかった。
「…レオノーラ嬢。私の正体は正直、結構知れ渡っていてね。認識阻害の魔術を使用しなければ直ぐに名が分かるほどに。」
気を引き締めたレオノーラに、ロンは微笑みながら話す。
「私は以前スピアーノ王国を治めていた、ロンバート・クューソス・スピアーノという。もう国を出て廃嫡されているがね。」
レオノーラは、その名に聞き覚えがあった。以外に世間に疎いレオノーラですら、ロンバートの噂は耳にした事があった。
「…5色の属性を使いこなす天才魔術師と魅惑のビスクドール…」
「…そう。マオは、亡国モンテール王国の縁の者。まぁ、私が天才というのは眉唾物だがね」
ロンバートは笑った。
「そして今回の話、エペルに関することだ。」
再びエペルに向き直ってロンは話す。自分に向けられた視線に、今度はエペルが背筋を伸ばす。
「エペル…自分から話すかい?」
「…はい。」
エペルはレオノーラとフレッサに向き直る。
エペルは自分の正体を明かして二人に嫌われたとしても、レオノーラとフレッサには誠実でありたいと思った。
特にレオノーラには。彼女の白銀の『癒し』の魔力に、彼女の優しさに、エペルは癒された。
そんな二人に隠し事はしたくない。
「レオノーラさん、フレッサさん…私はヴィペールって…薬師の弟子…エペル。ヴィペールって薬師は、生前…毒を使って名を馳せていた者…。そしてその悪行で殺された者…」
エペルの瞳は少しずつ潤んでいた。
「…そして、…今…私はある組織…アミナス教…そこの偉い人に『聖水』という名の『毒』を、…師匠から学んだ技術を…使って…」
躊躇いながらも独白するエペルの手に、レオノーラは己の手を重ねた。
「…でも、貴方は造りたくないと言った。…そして私とフレッサを護ろうとしてくれた。…だからこそ…貴方を護る。私はそう誓った。」
レオノーラは、強い意志を宿した瞳をエペルに向ける。
「…フレッサ…」
姿勢はそのままに、レオノーラはフレッサに声を掛けた。
「…はい」
「…私は君の…、私を護ろうとしてくれた事も知っている。君の主が誰かは知らないが、私に付いている間は『義』を果たすと誓ってくれている君を…」
フレッサはレオノーラの言葉に驚愕した。レオノーラには正体を明かしてはいない。あくまでフレッサは第2騎士団所属の者だ。しかしレオノーラは言う。フレッサの主はルッジート陛下でもルーファス殿下でも無いと。
「…ならば、私もそれに応えたい。エペルさん。私は王宮の第1騎士団副団長を務めるレオナード・ラグラード。今回、君を守る騎士だ。そして、今回の貴方の英断に、そしてフレッサ…君の私への義に対して、私の秘匿を明かすことで返そう。そしてそれはパシュミナ王国にエペルさん、貴方を差し出すのではなく、君自身の全てを護る誓いとしても。」
レオノーラのそう言うと、ちらりとロンを見た。
ロンは小さく微笑む。
「…私が…、君の決めた事に反対する事はない。君が後悔しないように。」
「…ありがとう」
レオノーラは、自分の姿を偽り騎士団に所属している。1歩間違えれば、正体を明かす事は身の破滅だ。
しかしエペルを護ると誓った。身も心も。しかし男性の姿ではエペルを護るに適さない。
そしてフレッサも、もう信頼出来る仲間だ。
レオノーラは覚悟を決めた。
「…私はレオナード・ラグラード。しかしもう1つの名を持っている。レオノーラ・ラグラード。これが私の隠された名だ。」
そう言うと、レオノーラは自分の耳朶に付けた認識阻害のピアスを外した。
すると男性的だった顔付きが女性のそれになり、身体も丸みを帯びた。
「…名と性別を偽って騎士団に所属している。騎士団自体は女性でも問題は無いが、家に関わる秘匿だ」
レオノーラは父の命で男性として生きてきた。
その誓いを破る事になる。
「…綺麗…。認識阻害の魔術が消えると、尚更魔力が溢れるのね…」
「認識阻害のピアスにレオノーラ嬢の魔力を送ることで、ピアスの魔術陣の契約が履行されているからな」
見蕩れるエペルに、ロンが付属して説明した。
「…男性では無いと分かってもらえれば、安心して私の庇護下にいてもらえるだろうか?」
レオノーラの言葉に、エペルは頷いた。
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