アミナス教使徒討伐 4

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アミナス教使徒討伐 4

たくさん『聖水』の材料を集めたが、出来るだけたくさん製造する予定を中止した。 その代わり、最後に一つだけ造る事になった。 その一つは、レオノーラ達が物的証拠として持ち帰るものだ。 そしてアミナス教の使徒には、ただ一つも納品しない。 多分、逆上される。しかしそれが狙いだ。 名乗りを挙げさせ、逆上させ攻撃させようとしなければならない。 「……必ず護ります。怖い思いをさせますが、エペルさん、あなたに攻撃はさせません」 「そうですよ!レオノーラ様は、騎士団でトップ3の実力を誇る方です!副団長になれるくらい!『絶壁の氷花』って呼び名が付いてしまうくらい!」 フレッサはレオノーラの横で拳を握りエペルに言う。 「絶壁の氷花?ミンタニア山脈の…絶壁に咲く、……氷の花の事だよね?」 「…そう!でもレオノーラ様の攻撃の時に、刃から迸る魔力の残滓が青白く光りながら空中に太刀筋を残していくのです!」 「……魔力の放出を、刃を介してするのですか?」 フレッサとエペルが、レオノーラを取り残して話を進めていく。フレッサが妙に褒め称えるので、口を挟めなくなってきたのだ。 「…確かに…レオノーラ様の魔力は身体に収まりきらずに溢れてますものね…。」 エペルは言った。初めて言われる事だった。 「…そうなのですか?私は『色無し』なので、魔力を使えません。特に誰かに何か言われた事も無かったのですが。」 今まで不都合は感じた事は無かった。 「…ですが、白銀の魔力がレオノーラ様を包んで、それは綺麗です。……多分、その魔力は人を癒します。……生き物、植物……レオノーラ様…色無しの方は動物に好かれ、植物は成長促進されると聞きます。」 エペルが言う事は、レオノーラは初めて聞く事もあった。動物に好かれる事は自覚もあったし、ロンからも聞かされていた。 「私はアリアドネ王国にいた時、色無しの方にお会いした事があります。お話した事は無かったのですが…、砂漠の地なのに、彼女の住む場所には緑地がありました。…そしてレオノーラ様がいたこの数日…私の畑の薬草の成長速度が…」 エペルが窓の外を見る。つられて見た畑は、薬草が植わっている。緑の小山の様になっていた。 「……あれ?昨日……」 「…はい。昨日殆ど収穫した薬草畑です。……この様になりました。…今度、水色の魔術師様にお聞きした方が良いかもしれませんね。魔力の放出を抑える方法などを…。」 私は専門外だから、これ以上は分からないとエペルはレオノーラに謝った。 「謝られる様なことは…。でも私の魔力が人を穏やかにさせるなら嬉しいですね」 エペルの『癒す』という言葉を、人の感情が『穏やかになる』と捉え、レオノーラはそう答えた。 「とにかく!エペルさんは安心して下さい!」 フレッサは割込むように話をする。 そしてエペルはそのフレッサの勢いに負けるように頷いた。 ◇◇◇◇◇◇ アミナス教の使徒が訪れるのは、大抵夜だという。 大変有難いことだ。向こうも疚しいから暗闇に乗じてやって来るのだろう。 しかし護衛の此方としても隠れやすいし、外に待機させる傭兵を配備しやすかった。 そして使者が来るのは大抵15から20名。聖水の搬出などを担う者を含めるとそのような数になるようだった。リーダー役には護衛が一人から二人付くらしい。 対して此方の傭兵は10名。少し少ないが、魔術師と兵士。その場の刃を使った戦いで短時間ならば勝算があると思われた。 そして当日、更に運の良い事に、その日は雨雲が空に広がりもう少しで雨粒が落ちるかもしれない。そんな天気だった。 カーチスからの遣いから届けられた騎士服を身に着け、帯刀をしたレオノーラとフレッサは、影で気配を消して待機している。 魔力が勝手に溢れていると言われたレオノーラだったが、普段からの体術や剣技の研鑽のおかげか、気配を潜めるという行動が魔力の漏れを抑えている事が分かった。 エペルには、出来るだけ使徒と距離を置いて話をして欲しいと指示していた。しかし魔術師の集団を率いるリーダー役だけは、どうしてもエペルの側に来るはずだ。そこで、店の壁側に衝立を置き、そこにレオノーラは潜む事にした。 魔術師相手だ。流石に衝立のすぐ側まで来られるとレオノーラに気付かれる可能性が大きい。 なのでエペルが今回、如何に迅速に『聖水』が造られていない事を知られ、逆に人質として捕えられないようにするかが鍵となる。 フレッサは奥の部屋に待機。残りの傭兵は外での待機だ。 店内の照明はランプ一つのみ。 その薄明かりの中で待っていると、玄関からノック音がした。 「…商品の受け取りに来た者だ。失礼する」 店内に魔術師のリーダーが入ってきた。 中にはリーダーと、護衛の二名。残りは外で待機しているようだった。 エペルの息を呑む音が小さく聞こえた。
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