アミナス教使徒討伐 5

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アミナス教使徒討伐 5

「約束の品を受け取りに参った。」 そう言って、リーダー役と思われる魔術師の男が室内に足を進めた。エペルはそれ以上リーダー役を室内へと進めさせないため、衝立の横まで出てきた。 リーダー役の男が店内を見渡している。 「……エペル……品物は…聖水はどうした?」 何時もならば箱に収められ積まれている筈の物が、一つも見当たらない。箱どころか、瓶一つないのだ。 「……あ……あの……この前…魔術陣の失敗があって…出来ていないんです…」 全て嘘を付くというのはエペルには荷が重い。そこでレオノーラの少し真実を混ぜた嘘をエペルに言うように話していた。 それをそのままに、エペルはリーダー役に言った。 「……なっ!……馬鹿者!!…今が一番必要な時に…!!今、アミナス教で膨大な魔力が必要なのは、お前にも重々説明していたはずだ!!…聖水無くしてどのように…。オルーサ様になんと言えば…!!」 これで大義名分が出来た。レオノーラとフレッサはこれで堂々と動ける。 リーダー役はアミナス教で聖水と呼ばれる『毒』を使用する為に、エペルを利用して強制的に造らせていた。 魔術師は怒りに任せ、携帯用のタクトサイズの杖をエペルに振りかざし、頭上目掛けて腕を振り下ろそうとした。 そのリーダー役の行動に、恐怖でエペルは両腕で顔を隠し、身を屈ませようと動いた。 その時、レオノーラは衝立の影から飛び出した。飛び出した拍子に衝立が大きな音を立てて倒れる。しかしレオノーラは構わず、衝立を踏みつけて進む。 一瞬遅れて、魔術師の側に控えていた護衛も、レオノーラに気付いて動いた。 しかしその遅れは一瞬ながらも、騎士にとっては大きいものだった。 レオノーラは身を低く飛び出し、長刀の柄に手をやりながらエペルとリーダー役の間に入り込む。そのタイミングでリーダー役を前に、素早く抜刀した。鞘から刃が引き抜かれるその時、刃はレオノーラの青白い魔力を纏い、その場の空気を刃が斬ったかのように太刀筋にそって魔力の残滓が見えた。 その刃はリーダー役の頤をあと少しで切り付ける、そのタイミングでピタリと止まった。両手で柄を握り、身を低くしてリーダー役の前に出たレオノーラは、リーダー役の魔術師を睨み付ける。 突きつけられた刃と刃から滴り落ちる魔力に圧倒され、リーダー役の魔術師は腰が引けた状態で止まった。 魔術師の護衛も一瞬の事に動きが遅れ、気付いた時にはレオノーラの刃が魔術師を捕らえていた。 レオノーラの勢いに、エペルは尻もちをついてしまった。レオノーラが動いたと同時に動いたフレッサは、すぐにエペルに駆け寄り、後方へエペルを引かせる。 レオノーラは、護衛に目をやり叫んだ。 「退け!!」 その瞬間、レオノーラから魔力が爆発的に放たれた。 それを合図に、玄関の外から争う音が聞こえ始める。 レオノーラの魔力はエペルの自宅のみならず、思いがけず範囲が広がり夜空に白銀の光の柱となった。 レオノーラは自分が放った魔力に驚いたが、それに構っている暇はなかった。 畑側の入口から、味方の傭兵が数名入りエペルの護衛についた。それによりフレッサは離れ、レオノーラの後ろについた。 「…アミナス教の使徒の者とお見受けする。」 構えた刀はそのままに、レオノーラは魔術師に言う。 「…我が名はレオナード・ラグラード。パシュミナ王宮の第1騎士団副団長を務める者である。此度はアミナス教、月の雫『朱』及び『蒼』なる猛毒の製造の検挙、使徒による猛毒の使用実態把握の為に、我が主の勅命を行使する。」 「……なっ……!!」 魔術師は、突然現れたパシュミナの騎士団に驚いたのか後ろずさる。 魔術師の横に、護衛役二人がついた。 フレッサはレオノーラの横につき、同様に刀を構えた。 「…王宮騎士団がこの店の周囲は包囲した。パシュミナ王国の御旗の元、ルーファス殿下の命によりアミナス教の賊を討伐せよ!!」 レオノーラの宣言により、戦闘が始まった。
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