討伐成功

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討伐成功

レオノーラの宣言後、外での魔術師の捕縛が終わった傭兵が中に突入してきた。 リーダー役の魔術師の護衛が取り押さえられる中、レオノーラの横に傭兵のリーダー役であるフィラカスがフレッサと共についた。 「外の制圧は完了致しました。エペル嬢の保護も終えております。ラグラード卿は心置きなく勅命を果たして下さいませ。」 その言葉を合図に、レオノーラは魔術師に向けて構えていた剣を動かす。 しかし魔術師もその動きの前に魔術陣出現の詠唱を唱えていた。 「我願う!我が身を護るその力を!」 全ての詠唱は、レオノーラの剣を薙ぎ払う動きで叶わなかった。しかしリーダー役を務める魔術師。その刃はレオノーラの剣と魔術師の間に出現した、火の属性の魔力を帯びた魔術陣によって阻まれた。 刃を受けた衝撃で魔術師の身体がよろける。 捕縛対象である魔術師に致命傷を追わせることは出来ない。 しかし魔術陣で身をまもっているなら、逆に剣で切りつけても死にはしない。 そうレオノーラは判断し、薙ぎ払った剣を今度は頭上から振り下ろす。魔術師は反射的に、短い杖を自分の頭上に横向きにやる。何かを紡ぎだそうと口が動いたが遅かった。 魔術師の頭上から腰にかけて、斜めに振り下ろされた刃は魔術師を捉え、魔術陣諸共吹き飛ばした。 次の反撃に備え剣を構えていたレオノーラだったが、魔術師はそのまま失神したようで動かなくなった。 制圧が完了した。 「レオノーラ様…勅命を果たされた事…お喜び申し上げます。」 横に控えていたフレッサはレオノーラに声をかけた。 魔術師に縄を打つのは傭兵に任せ、レオノーラは頷いた。 そしてもう1人、横に控えていたフィラカスを見た。 「貴公らのお陰で、我らの任務は遂行出来た。礼を言う。」 「勿体ないお言葉。我らも己の任務を遂行したまで…。」 フィラカスはレオノーラに頭を下げた。 そして顔を上げると、レオノーラをじっと見た。 「名を…なんと言う?」 「…はい。フィラカス・ガルディ・クストーテと申します。」 「…クストーテ…子爵家か?…何故子爵家の子息が傭兵など?」 聞き覚えのある家名に、レオノーラは疑問をそのまま問う。 その問いに、フィラカスは笑顔で受ける。 「…我が主の願いを叶える為に、馳せ参じた次第にございます。私はクストーテからの出自ではありますが、既に廃嫡しております。…我が主に従える為に…。それよりラグラード卿…」 それ以上の追求を逃れる為に、フィラカスは話を変える。 「…お力を抑える術はお持ちでしょうか?このままでは枯渇状態に陥ります」 レオノーラの身体からは、最初に魔力を放出した時のまま魔力が排出され続けていた。エペルの自宅周辺は未だレオノーラの魔力で光の柱が立ち昇っていた。 「…すまない…大丈夫だ。」 フィラカスに促され、レオノーラは魔力を抑えるべく気配を潜める時と同じ様に気持ちを落ち着かせる。 すると波が引くように、静かに白銀の魔力が引いていく。 しかし討伐に成功した高揚感がまだ勝っているのか、普段よりも魔力の放出が続いていた。 「…失礼して、御手に触れてもよろしいでしょうか?」 フィラカスの言葉に、レオノーラは左手を差し出した。 フィラカスはその手を自分の掌に乗せ、その上からもう片方の手を重ねた。 「…私には水魔力がございます。色無しのお方はどの属性も相性が良いとは聞きますが、どうやらラグラード卿は後付けで、魔術具で水属性の魔力を帯びているように思われます」 レオノーラはフィラカスの言葉に、ロンの魔術具からの影響かもしれないと思った。 そしてそれはフィラカスがワザとそう仕向けた言葉でもあった。あくまで、レオノーラの身に付けている魔術具は、水属性の魔力を後付けで身に付けるためのものと、フィラカスが認識したと思わせる言葉だ。 「…ですから、失礼ながら…私の魔力を少しラグラード卿に流します。その流れに合わせてお気持ちを鎮めて下さい」 フィラカスの手からレオノーラの中に魔力がゆっくり浸透するように入っていく。水が染みた布から水が一筋流れるように、ゆっくりと。 「…どうぞ…ゆっくり…集中して下さい」 言われるままにレオノーラは瞼を閉じ、魔力の流れに集中する。静かな水の流れのような魔力に合わせ、レオノーラの溢れていた魔力も鎮まっていく。 「…如何でしょうか?もう大丈夫ではないですか?」 「…重ね重ね、礼を言う。」 「お役に立てて光栄です。」 フィラカスはニコリと笑い、レオノーラの手を離した。 内心、ティグラートの不興を買わないか動悸がするが、表には出さない。緊急事態だったと納得してもらおう。 「では、我らはパシュミナ王宮への護送を行います。馬車をご用意しておりますので、ラグラード卿とストラーダ卿、そしてエペル嬢はそちらに。」 こうしてパシュミナ王宮へ凱旋する運びとなった。
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