亡国モンテール王国の跡地にて

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亡国モンテール王国の跡地にて

王宮にてルーファス殿下に報告を済ませ、その後はしばらくエペルの護衛を務めるようになったレオノーラは、現在パシュミナ王国にいなかった。 エペルと共にやって来たのは、亡国モンテール王国の跡地。 スピアーノ王国と極秘裏に協力体制を取ったとレオノーラが知ったのは、王宮に帰還後だった。 アミナス教の暴動を未然に防ぐという事は、パシュミナにもスピアーノにも利がある。そしてカーチスがルッジート王にもたらした情報が陛下を動かした。 スピアーノ王国の上皇ブリガンテ陛下が、ルッジート王が病に伏しているのではないかと疑いを持っている事である。 事実ではあっても公に出来ることではなく、現時点で現国王のルッジートは健在である事を知らしめなければならなかった。 極秘裏に行われた会合で二人は話を進め、協力体制を整えた。 そしてアミナス教の聖水を造っていた担い手の保護を行うにあたって、今はスピアーノが領地として統治下に置いているモンテール地区を使用する事が決まった。 しかし市井の身のエペル。悪目立ちを避けるためにも、護衛はレオノーラのみ。そしてスピアーノからの監視役としてロンがモンテールに向かう事になった。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「北部に位置するモンテールなのに、暑いですね」 エペルは額の汗を拭いながら言った。 「そうね…。思ったより陽射しが強いわね…」 同様に、レオノーラも汗をかいている。 「ここは夏と冬の温度差がかなりあるらしいがな。まぁ、パシュミナやスピアーノも今頃は真夏真っ盛りなんだから、ここの方がマシなのかもな」 パシュミナ王国よりかなり距離のあるモンテール地区。移動に3日程要したが、その間に季節は少し変わってしまったらしい。今頃、パシュミナ王国は更に暑いのではないかと言われ、時期的にそれもそうかと納得する。 今回、パシュミナやスピアーノから距離がかなりある土地だと言うことと、レオノーラの秘密を知っている者しかいない事。更にロンが監視役としているので、パシュミナやスピアーノの関係者がモンテールの土地に現れたらすぐに分かる事等があり、レオノーラは女性の姿のまま過ごす事になった。 少しでもエペルが安心出来る環境にした結果でもある。 ロンだけは、エペルにとって尊敬できる魔術師なので別格らしい。 この地で、エペルの薬師の技術や月の雫を初めとした毒に関する調査を行う予定でもあった。 しかしロンは殆どの毒の製造工程を知っている。なので、そこまで気負ってする事柄はなく、エペルの護衛をしつつのんびり過ごす事になりそうだった。 到着してから、モンテール城の使用する部屋を片付ける。 本来であれば人数分の部屋を清掃するのに日数がかかるかと思われたが、魔術を便利使いしているロンがあっという間に終わらせた。 「人間、便利なモンは便利に使わないとな」 だそうだ。 “時戻し“の魔術と言うそうで、部屋や家具を元々使っていた頃に戻したようだった。見ても触っても、経年劣化は無いようだった。 部屋は3部屋。エペル、レオノーラ、そしてロンとマオ。 マオの部屋はいらないのかとレオノーラは内心思ったが、「猫に部屋はいらない。俺が世話するからいーの」と言われ、まぁ、二人の仲なら問題ないかと流した。 使用人がいないので、料理は女性二人が受け持つ。他の掃除や洗濯はロンがすると言われた。 女性の洗濯を殿方にさせるなどと拒否したが、樽に入れて置いてくれれば魔術でグルグル回して洗濯するから触らないと言われた。本当に便利だ。その代わり干すのは自分でとの事だった。 そんなこんなで平和に過ごす事数日後。 大型の鳥がロンの元にやって来た。 「…この差し入れ…良いのか?…え〜っ…」 ロンが呻いていた。 「…どうかされたんですか?」 シャツにスラックス姿のレオノーラは、剣の鍛錬を行っていたところだった。 ロンの呻く声に引き寄せられ、近付いた。 「君とエペルに…ルーファス殿下から…あの人…暇なのかな…それか嫌がらせ?」 手にした大きな紙袋の中を見ろとロンはレオノーラに差し出した。遅れてやってきたエペルと共に中を見てみる。 中身は、最近王都でも出回り出した水着が入っていた。3着。 モンテール城の側には湖がある。そこで水遊びをしろと言う事か。 「…え?」 「あら、可愛い〜」 戸惑うレオノーラを他所に、エペルはデザインの可愛さにキャーキャー言っている。 全てビキニタイプで、デザインは少しずつ異なる。色も3種類あった。 「…ルーファス殿下…これは知られてますね…」 レオノーラは先程のロンのように呻いた。 「何をですか?」 緊迫感のないエペルは首を傾げ、レオノーラに聞く。 「…女性用の水着が3着。これ、各自にって事です。つまり私が女である事、あと…」 「…マオの事もだな。…まぁ、腐っても王族が抱える影なだけあるんだろ。調査がお上手な事で。しかし明かし方が癖があるな、あの方は…」 これでは嫌がらせか、優しい見方をするなら可愛い悪戯だ。 「…あ、メッセージカード…」 エペルは紙袋の底にあったカードを取り出した。 『バカンスを楽しんで。レオナードは聖人の儀の5日前に、一時王宮へ戻り、式典の参加を命ずる』 ロンは空を見上げ、手のひらを額に置いた。 「…バカンス…。何処がだ。」 その言い草にエペルとレオノーラは笑った。全くだ。 レオノーラは護衛だし、ロンは監視役だと言うのに。 「半分悪戯だな。なるほど。人をおちょくって面白がる性質をお持ちのようだ。」 王宮ではルーファスは多分楽しそうに笑っていることだろう。 しかしコレではこの水着を使わない訳にはいかない。 仮にも王族の方からのプレゼントだ。 画して翌日、湖での水遊びが決まった。
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