178人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
地下水路の秘密基地 1
先日光の柱を出現させた、アミナス教の女神候補かもしれないレオノーラの元に、フレッサが派遣された。
ロンがいて、フレッサもいる。
そして当の本人、レオノーラも剣技に関しては卓越している。
これでレオノーラに関しては大丈夫。カーチスは安心し、プテリュクスが捜査しているアミナス教の司祭、マガルという者の報告を受けていた。
「マガル・シュカ・クラカディール。アリアドナ王国の子爵出自の司祭ですね。」
スピアーノ王国に中央神殿を置くアミナス教。
その教皇はヴァルタ・クォーノ・プロヴィヅィア。その手足となって動く司祭がマガルである。そしてそのマガルはオルーサの下でも動いている。オルビタ教のオルーサとアミナス教の繋ぎ役・監視役も含まれているのかもしれない。
「…で?偽金貨の製造工場に出入りはしてるのか?」
「…真面目な性格なんでしょうね。自分の目で確認しているようですよ?」
カーチスの問いにプテリュクスは答えた。
それは助かる。カーチスはソファに寝転がりながら話す。
プテリュクス邸の応接間のソファは、クッションが適度に柔らかく、早馬でミンタニアまでやって来たカーチスの身体にも優しい。とはいえ、人の家での態度ではなかったが。
しかしプテリュクスは、カーチスの強行軍ぶりを知っている。黙って好きにさせている。
カーチスはルッジート王の護衛から半日だけ抜け、ここに来ている。話の後は、また王の元に戻るのだ。休憩くらい必要だった。
「…じゃあ、それに合わせて摘発したい所だな。手っ取り早い。」
「…調査が進み次第、日時は連絡致しましょう。」
話が進む中、部屋にノック音が響く。
プテリュクスが許可すると、使用人が軽食を運び入れる。
「…ほら、少し食べて行きなさい。どうせ食事の時間も取れないのでしょう?」
カーチスにプテリュクスは勧める。カーチスは有難く食べる事にした。
肉好きな事もとっくにバレているので、用意されたのはサンドウィッチだが具はローストビーフだったり、チキンカツだったりガッツリしたものになっていた。
「王宮も落ち着かなそうですね」
「…まぁ、表立ってはそこまで無いけど…」
ルッジート陛下が先日、家臣の前で喀血した。
それを期に、陛下の病状は露見してしまったのだ。
それ以後は王宮内の裏側は、皆が陛下が崩御した後の画策で動きが見られた。
カーチスには不愉快で堪らない事であったが、家臣が動くのは仕方ない事でもあった。
「…聞くのは酷かもしれませんが、…」
「…構わんさ。医師の話じゃ…半年かな…」
プテリュクスの口振りに、聞きたいことを察してカーチスは言う。成人の儀はあと1ヶ月。崩御する可能性が無くはない。
カーチスは溜息をつく。せめて穏やかな時間を過ごして欲しいと願わずには居られない。しかしそれを誰もが許してはくれないようだ。
「…美味いな…。良いお抱えがいるな…」
「伝えておきます。王宮の騎士団長からのお褒めの言葉は料理人の誉れになるでしょう」
「はっ。市井出の俺の言葉をもらっても…」
プテリュクスの言葉にカーチスは笑う。
今のこの身分になってからは、王宮の料理を口にする事はあるが、陛下に拾われるまではそれこそ泥水を啜るような生活だった。
妹を亡くしたあの日。唯一の家族が命を落とし、代わりに陛下が唯一の人となった。それ以来、カーチスの命はルッジート王の物だ。しかし今度はそのかけがえのない人を無くそうとしている。
今は嘆く暇は無い。出来るだけ先の事は考えず今の事だけを考える事にした。
「…それで、工場の場所は?」
「…あ、言ってませんでしたね。面白いですよ。ちょっと関心してしまいました」
珍しくプテリュクスが褒め言葉を言っている。
「パシュミナ王国の王宮に繋がる地下水路があるでしょう?貴方と初めてお会いした海沿いの廃村に繋がる…」
「…あるな…」
「はい。その廃村近くの地下水路に増設して造ってるんです。出入りはその廃村で行っているみたいです」
プテリュクスは面白そうに話をする。
まさか地下水路に工場があるとは、誰も思わない。そして廃村なら、人の出入りもそこまで気にしなくても大丈夫だ。
「…アリアドナの縮小版みたいな感じか?」
「そうでしょうね。土魔術で造っているのでしょう。」
かの砂漠の王国は、地下に王都があるという。それは土魔術を使って造られた。
「…じゃあ、マガルがそこに来るのは、万が一崩落しても困るから点検してるのかな?土属性持ちかもな。」
「そうかもしれませんね」
プテリュクスから提供された食事を完食し、カーチスは立ち上がった。
「美味かった。また食べに来よう、シェフによろしく」
「…もう少し量をお出しするようにしましょう。ではお気を付けてお戻りを。」
プテリュクスに見送られ、カーチスは慌ただしく王都へと出立した。
最初のコメントを投稿しよう!