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第1話
窓辺に飾られた可愛らしいアンティークのランプが、きらきらと輝いていた。思わず目を奪われてしまうと同時に、なんで私はこんなところにいるんだろう? と二葉は自分自身の行動に眉を寄せる。
「こちら、どうぞ。お飲み物も一杯目はサービスになっていますよ」と、おっとりとした品のいい老婦人から差し出されたコーヒーがかちりと小さな音を立てて優しい風合いの木の机の上に載せられた。老婦人は二葉を目を合わせると鼈甲色の丸メガネの向こうの瞳をにこりと細める。
「あ、ありがとうございます」と返事をする自分の声が上ずっていることに気がついて、こくりと小さくツバを呑み込んだ。
「いいでしょう、ここ。夕方から夜9時までしてるっていうのがありがたいわよね」
うふふと声が聞こえたから横を見ると、頬杖をつきながら微笑んでいる人がいた。
一見、女性のような言葉遣いだが、こちらは男性である。二葉よりは少し年上に見えるから二十代の中頃だろうか。金髪の刈り上げ、耳元にはおおぶりのピアスらしきアクセサリーが揺れていることに気づき、さらに二葉の目が泳いだ。
「アッキーちゃんは所見だと怖いのよ。ほら怯えちゃった」
「そんなぁ、美智代さんったらヒドイッ! サチさん、なんとか言ってあげてよぉ」
「さあ、どうですかねぇ」
「おっとり話してさらっと流さないでちょうだいっ!」
店内には、美智代と呼ばれる中年の女性と、アッキーという青年、そして店主の老婦人、二葉の四人だけだ。窓のモザイクガラスから、夕焼けのとろけたようなオレンジ色がこぼれてランプに光を重ねている。
――どう考えても、場違いだ。
(私、本当にどうしてこんなところに……)
と、自分自身に問いかけたが、もちろんここに足を向けたのは二葉自身の意思だ。膝の上に載せていた黒い通勤用の鞄をぎゅっと抱きしめて自問自答を繰り返すしかない。
「改めまして、いらっしゃいませ。手芸喫茶『自由時間』へようこそ。私は店主のサチと申します。……よければ、お名前をお伺いしてもいいかしら?」
「えっと、あの、私は、佳苗――」
かなえ、ふたばです。と小さな声で話すと同時に、二葉はここ数週間のことを思い出した。怒涛、というわけではなかったが、口元からため息が漏れてくる。まず初めは、そうだ。
彼氏に振られた、というところからスタートなのかもしれない。
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