年々花見譚々

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昔から花見は三月四月、見るには桜と決まっている。 「うちはどうして、年中花見なんだろうなぁ。」 縁側で熱いお茶を片手に、そんな事を呟いた。 娘たちも大学受験やら結婚やらで家を出て、賑やかだった我が家は再び妻との二人暮らしに。 庭に咲くアーモンドの花を眺めていると、妻がお茶請けを運んでくる。 「いいじゃないですか、見ないと勿体無いですよ。毎年咲いて、毎年散るんだもの。見てやらないと、花も気を悪くします。」 そんなことを言うんです。 妻の言葉には妙な説得力が有り、いつも僕をストンと納得させる。再び庭木に目を映すと、不意に懐かしい事を思い出した。 一月、雪に枝を折られながらも、熱い想いを焦がした寒椿。 二月、小さな陽射しに希望を持ちながら顔を上げる小梅の花。 三月、寒波を切り抜け力強く、想いを交わして色付いた桜。 四月、アーモンドの花。実を結ぶ兆し。豊かさを授かる。 「おや、この景色は…。」 思い返したのは、もう隨分と昔の記憶だ。重い甲冑を身に着けて、腰に刀を差していた頃。 これと同じ景色を目にしながら、一人の女性の肩を抱いていたのだ。 その女性は今も、全く同じ顔のままで隣にいる。 「私はもう何百回とこの花たちを見てきましたけど、変わらないですねぇ。どうして同じ魂なのに、同じ花を見ても思い出さないのかしら。」 地下から風が吹き上げてくるみたいに、途端に古い記憶が舞い戻ったのだ。 この土地が住み良いと思ったのは、遥か以前からこの土地で自分が育った思い出があるからだったのかもしれない。 風に流れて来た花弁が、お茶に浮かんでくるりと回った。 「いやいや、今思い出したよ。君は…、ひょっとして…もう随分と長く僕の傍にいてくれたんだね?」 「あらっ。」 しっかり者の彼女が珍しく、目を丸く見開く。それから庭の花より少し赤みのあるピンク色に、頬を染めた。 「今日はとっても良い日ですね!久しぶりに、貴方に会えました!」 いつもと変わらぬ様子で、妻は自分も縁側に腰を下ろす。機嫌よく鼻歌を歌い始めた。 遠い日々を思い出す、手毬唄を。
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