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今回の映画。なんだかんだ言って、怖がっていたわりに香綾ちゃんは楽しんでいたようだった。冒険ものとして見たらなかなか面白かったことだろう。カフェでケーキを食べている最中、ずっと雪音ちゃんと楽しそうにおしゃべりをしていたのが印象的だった。
一方、期待値が高すぎたせいなのか、真綾ちゃんにとっては微妙だったらしい。二人に合わせて“面白かったね”なんて言っていたものの、実際はちょっと納得していないという表情だった。タビタが微妙な顔で真綾ちゃんを見ていたので間違いないだろう。
「そういえば、亜湖。……あの、プレゼントは買ったのか?」
「……ああ」
おやつを食べている時、こっそりと雪音ちゃんが耳打ちをしてきた。あの、プレゼントというのは“真綾ちゃんの誕生日プレゼント”のことである。今月末に、彼女の誕生日パーティをすることになっていたのだった。きっと、雪音ちゃんはものすごく悩んでしまって、まだ手をつけられていないのだろう。
「まだ買ってない。悩むよねえ。あ、今年はその、みんなに“ついでのお菓子”あげられないかも……」
「あ、いいよいいよ。真綾の誕生日なんだから、俺らのことは気にするなって」
再び、ポケットの中でもぞもぞと動く気配。私が嘘をついたことがバレたのだろう。
真綾ちゃんの誕生日プレゼントはもう買ってあるし、なんなら雪音ちゃんたちにもちょっとしたお菓子の準備をしてあったりする。まだ買ってないし用意できなさそう、というのは嘘だった。――当日“実はありました!”と言って驚かせたかったがために。
無論、こんな嘘なんかバレバレかもしれないけれど。
「……なんとなく、わかった気がします」
夕方。
みんなと別れて帰宅する途中、タビタが私に言ったのだった。
「今日、亜湖さんたちはたくさん嘘をつきました。でも……どれもこれも、誰かを励ましたり、気を使ったり、喜ばせるための嘘だった。そうですよね?」
「そうだね。……人間、嘘も必要なんだよ。嘘は駄目、って大人にはよく言われてたけどさ。時には、嘘をつくことで、誰かを守ったり、喜ばせることだってあるんだよね」
なんとなく、亜湖もタビタと一緒に嘘について考えてみてわかったのである。
エイプリルフールがどうしてあるのかはわからない。でもひょっとしたら、誰かが“人を楽しませる嘘も、守るための嘘もある”ということをみんなに思い出して欲しくて作ったものなのかもしれない、と。
「タビタも、嘘を練習してみようと思います。……よし!」
家の前まで来たところで、タビタは私のポケットから抜け出した。そして、とんでもないことを言い出したのである。
「亜湖さん、亜湖さん、クイズです!この中に一つ、タビタの嘘があります!当ててみてください!一、タビタはビルよりも巨大化することができます。二、タビタは4トンのトラックを持ち上げられます!三、タビタはこの姿のまま100キロのハンバーガーを食べられます!さあ、どれ!?」
「待って待って待って!?え、え、その中で嘘は一つだけなの!?嘘でしょおおおお!?」
夕焼けの空に、私のツッコミが木霊する。
どうやら私の騒がしいエイプリルフールは、あともう少しだけ続くらしい。
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