タビタとエイプリルフール

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 ***  今日は駅前のショッピングモールに併設された映画館で、友達数人と映画を見る約束をしていた。子供向けのホラー映画を上映しており、みんなで見に行こうという話になったのである。  まだ時間はたっぷりある。私はいつもより少しのんびり歩くことにする。ちなみに、タビタは“気に入った相手の前にだけ姿を現す”能力があるようで、通り過ぎる人達は誰も私の顔の横で飛んでいる宇宙人モドキを気にしていないようだった。 「エイプリルフールに興味があるって、なに?」  交差点。赤信号で止まったところで彼女に声をかけた。周囲の人に聞こえると不審がられそうなので、小声でしか話しかけられないけれど。 「確かにそういうイベントがあるのは事実だけど、クリスマスとか、お正月とかに比べたら全然盛り上がらないよ?だって、嘘をついていい日ってだけだもん」  もしかしたらエイプリルフールにちなんだ大きなイベントなんかもあるのかもしれないが、少なくとも一般的な女子小学生である私にその認識はなかった。これは、四月一日が基本的に春休みで学校にも行かないから、というのも大きいかもしれない。  今日は偶然友達と遊ぶ約束をしていたが、普段の日ならそれこそ一日家にこもってぐーたらしていたかもしれないのだ。そうなれば、顔合わせるのは家族くらい。高校生の姉も両親も、こういうことにはさほど興味がない印象。わざわざジョークを言われた記憶もほとんどない。 「なんなら、一切参加しない人も多いし。私も、わざわざ何か面白い嘘つこーって思ったりしないなあ。友達にはそう言う子もいるけど」 「ええ。ですが、タビタからするとなかなか興味深いイベントなのです。我々トコシエ星の住人には、けしてできないイベントですから」 「できない?なんで?」 「我々は一切嘘をついてはいけないことになっています。基本的にみんな、本当のことしか語ることができません。生まれつき、そういう習性があります。無論、無理やり逆らって嘘をつくものもまったくいないわけではないですが……我々の惑星では基本的に嘘は悪、醜いものだと言われているのです。そして、嘘をついた人はすぐわかります」 「ああ、なるほど」
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