オナカヘッタのヘッタくん

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 チュンチュン、チチチ……  カチャッ、ブロロロー──……  すずめが起きたんだ。新聞配達のバイクが通った。背中のカーテン越しでもぼくはもう、音だけでわかる。  クォー、カハァー。クォー、カハァー。  あぁ、ヘッタくんお腹がへったんだ。体操座りのままゆっくりと右斜め上を見た。左目だけ赤く光る大きな真っ黒いヘッタくんも、ゆーっくり顔をこっちに向けてぼくを見た。 「お腹へったんだね」  クォー、カハァー。クォー、カハァー。  ヘッタくんの呼吸はこんな風で変なんだ。お腹がへるとこの息が大きくなるからわかる。ぼくはパジャマのズボンのポケットに手を入れて、とりだして、ぱっと開いた。 「はい、じゃこおにぎりだよ」  からっぽの手のひらに、ヘッタくんが少しかがんで顔を乗せた。真っ黒い雲みたいなのが手にかぶさる。 「おいしい?」  ヘッタくんは口がないから喋れないけど、真っ黒の中でもぐもぐしてると思うから、きっと喜んでる。左目の赤色が、ちょっと明るくなった。 「ヘッタくんは、いっつもお腹がへってるね」  クスゥー、クスゥー。ヘッタくんの息が静かになった。お腹いっぱいになったんだ。 「すぐお腹がへるのは、こおんなに体がおっきいからかな?」  ぼくは両腕をいっぱい広げて、ヘッタくんの大きな体を表した。  クスゥー、クスゥー。ヘッタくんには口がないけど、きっと笑ってる。  ぼくは膝を伸ばして、ヘッタくんのもふもふの大きな体にもたれて、目を閉じた。  窓の外から、ただ静かに、鳥の鳴き声や、時々通る車の音、どこかのおじいさんの咳が聞こえた。
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