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山に到着して見た桜は、不思議と満開のままだった。
「本当は、僕が力の半分を与えて生み出したフェンリルと一緒に、異世界に逃げて生き延びてほしかったんですけれどね……」
「私だけ生き残っても意味はないもの。……あなたがいない世界で生きる意味を見いだせるほど、私は強くないわよ。……昔も、今も、ね」
ふわり、と……風が桜の花びらを舞い上がらせている。
「すみません。キミだけでも生きていてほしかったというのは、神だった頃の僕の傲慢でしたね」
「いえ、あなたのいない世界で生きるくらいなら共に散らせてほしいと願った私のわがままよ」
鎮魂歌を捧げることしかできなかった巫女が、神様が与えてくれた生き残るチャンスを無駄にしてしまったのだから。
ふいに、ぐいっと腕を引かれて抱き寄せられ、私の体はすっぽりと彼の腕の中におさまってしまった。
「どうも感傷的になってしまっていけませんね。前世は前世、今世は今世、切り替えましょう、お互いに」
声だけ聞くと冷静そのものなのに、私の頭を胸元に抱え込んだあなたの心臓の音は、ばくばくと、大きく脈打っているのがわかった。
「ええ、そうね。今世は今世、だもの」
桜が雪を連想させるからか、あなたと共にいることで前世の記憶に引っ張られてしまうのか……これから、慣れて行くしかなさそうね。
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