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「そうだ、お弁当!」
急に恥ずかしさが込み上げてきて、咄嗟に叫んだ言葉。
「お弁当?」
私を抱き締める腕の力を緩めてくれたから、彼の胸元に手を添えて少しだけ体を離して見上げれば、満開の桜を背に首まで赤くなっているのに平静を装おうとして失敗し、照れた表情を隠しきれていないあなたの顔を直視する結果になってしまった。
「あ、その……えっと……ほら、景観を損ねるからとかで、最近ではお花見で宴会が開けるような場所も制限されてきているから、家、で、お花見……」
言いかけて、自分がとんでもないことを口走りそうになっていることに気づいて、言葉が途切れてしまう。
「……お昼の時間に間に合わなかったら、夜桜とか見ながら一杯、どうかなって……用意、してきた、の」
お酒は二十歳になってからだし、何も問題はない。
ただ、その……これってやっぱり……まずい気がしなくもない。
「あのねぇ、僕が送り狼になるようなやつだったらどうするつもりだったんです?」
「ぅ……その。……ごめんなさい。浮かれていて……お弁当の代わりに誘えたら誘おう程度の軽い気持ちで……」
「その信頼は生殺しです、と……伝えておきましょうか」
困ったように眉を下げ、苦笑いを浮かべてそう告げたあなたに、私は何と返答したのだろうか……恥ずかしすぎて記憶にない。
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