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……泣きたいのに泣けない、か。
本当に、どうして気づかれてしまうのだろうな?
「桜は、好きですよ」
彼女の問いへの返答として紡ぎだしたその言葉は、僕の偽らざる本心だ。
満開の花を咲かせても、風ですぐに舞い散ってしまって、その様子を見ることができる期間は短いけれど。
「満開の花を見ながらお花見がしたい人間の都合などお構いなしに、雨の日だろうが強風の日だろうが、咲きたい時に花を開かせ、潔く散っていく。風に舞う花びらがきれいだと言う一方で地面に落ちて踏みつけられる花びら。花筏のように水面に浮かぶ花びらがきれいだと言う一方で水に沈んで枯れていく花びら。掃除が大変だと嘆く人間の都合など知るものかというその様子が、ああ自然だな……って思うんですよ」
僕の考え方が、だいぶひねくれたものであることは自覚している。
それでも桜の花びらは、雪のように冷たくはないから。
吹雪のように見えても、頭の上に降り積もることがあったとしても、体温を奪うことなんてないから。
僕にそれを気づかせてくれたのは、他ならぬキミなんだよ。
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