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「ふふっ、たしかに自然そのものね」
再び笑顔を浮かべたキミが、僕の頬に添えていた手を離して、その手で僕の手に触れた。
一瞬の迷い。
このまま、手を繋いでもいいのか、それとも……。
ばくばくと脈打つ心臓の音を深呼吸でごまかして、そっと触れたキミのその手を握り返す。
互いの指と指を絡ませる、いわゆる、恋人繋ぎというやつだ。
「こんなに早く、花が散ってしまうとは思わなかったんです」
予定では、満開の桜の花を見ながら、キミとお花見デートのつもりが……桜の花は、前日の風と雨で、ずいぶんと散ってしまった。
「それでも私は、お花見に誘ってもらえて嬉しかったわ。それにね――」
ほんのりと頬を朱に染めた彼女が再び桜の木を見上げたので、僕もその視線の先を追いかける。
そこには、散らずに残っていた桜の花の軸を啄んで枝から切り離し、くちばしで咥えていたと思ったら、あっさりと地面に落とした小鳥の姿。
「イタズラな小鳥の様子がよく見えるわよ」
「それは……。キミが楽しんでくれているなら、いいとしましょうか」
それがキミの照れ隠しによる発言だということは、木から視線を戻してキミの真っ赤な顔を見てしまった時に気づいたけれど、そこには触れないほうがいいのだろう。多分。
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