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「お花見、実はこの場所以外にも候補があるのですよ。行ってみませんか?」
「他の場所?」
このあたりで、他にお花見できそうな場所というと……どこがあったかしら?
「雪の日に、イタズラを装って僕たちを巡り合わせてくれたお節介なドラゴンさんの住んでいる山なんてどうでしょう?」
「ドラゴンって……うふふ、もう。あの雪の日に、おとぎ話じゃあるまいしって言ったのは、あなたなのに……ふふっ」
雪の予報なんてなかったあの日。
雪を見上げたまま動かないあなたを放っておけなくて私が差し出した傘が、あなたと話すきっかけになった。
どこのドラゴンのイタズラなのかしら?……そう言ったのは私だったけれど。
「そうね、それもいいかもしれないわね。お人好しな魔王さまや、その魔王さまから恋愛相談を受けていた龍王の孫娘のところでもいいんじゃないかしら? お節介なドラゴンさんもいそうじゃない?」
おとぎ話じゃあるまいしと笑い合い、そんな雑談をしながら、繋いだ手はそのままに、淡く色づく花が見える山を目指してゆっくりと歩きだす。
前世で止まってしまった時間を紡ぎ直すように。
前世で潰えた未来を今世で一歩ずつやり直すために。
咲いて、潔く散って、また翌年には花開かせる桜のように。
散ったままでは終わらせない。
今世で、またきれいな命の花を咲かせてみせるわ。
生きている。確かに、ここにいる。
わたしも、あなたも……共に歩んで行ける。この世界でならば。
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