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 街灯が点在するだけの薄暗い一本道。  駅周辺には立ち並んでいた民家も進んでいるうちにまばらになっていき、10分も歩くと点々と照らし出されるアスファルトしか見えなくなった。まだ0時を過ぎたばかりなのに、交通量はほぼ皆無。通り過ぎるヘッドライトは、1度しか見ていない。  街の灯りが少しずつ近付いてきた。まだ少し距離はあるが、次の駅までそれほど時間はかからないだろう。道なりに進んで行くと広い海に漂う孤島の様に、ポツンと短い橋が浮かび上がっていた。  点滅信号さえない見通しが良い交差点。  明度の低い街灯に照らされた橋。  周囲を見渡しても動くものはない。  静寂がシンシンと耳に痛い。  右に曲がって橋を渡り始める。  不意に、左頬がビリビリと痺れ始めた。 「―――――おにいさん」  分からない事をいくら考えても時間のムダだ。  できるだけ考えないように。  目の前に続く暗闇に淡々と歩を進める。  夜の帳が昨日の出来事にも幕を下ろしてくれる。  知らない土地、知らない道は思考力を奪う。   だから、すぐに気付く事ができなかった。 「ねえ、おにいさん」  突然、目の前にフワリと少女が飛び出してきた。  本当に驚いたときは、声が出ないのだと初めて知った。  反射的に2、3歩下がり、その場で身構える。  この場所に似つかわしくない制服姿の少女。誰もいなかったはずなのに、一体どこから現れたのか。考えられるとすれば橋の下。橋の下?  思考を読み取ったかの様に、少女が口を開く。 「私と同じ匂いがしたから、つい出てきちゃった。でもね―――――」  少女は真っ白な細い人差し指を口元にあて、ウインクする様に片目を瞑る。 「―――――わたしがここにいる事は、絶対にナイショだよ」  
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