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 少女はにぎりこぶしを作って、両手を上下にブンブン振る。そして、その漆黒の眼で見上げてくる。 「だから、そうなんだって。  だってさ、あ、ゴクラクチョウっていう鳥知ってる?オスがキンピカの鳥。アイツは恋の季節に気に入った相手を見付けると、”ボクと結婚して下さい!”って必死にダンスするんだよ。メスはプイって、なかなか見向きもしてくれない。でも、オスはいつまでもダンス、ダンス、ダンシンッ。余りのしつこさに、”あーもー結婚してあげるわ”みたいな。どう見ても、オスが天秤下げまくってるでしょ」 「それ、特殊な鳥のハナシだろ」 「え―――そんなことないよ。  シンデレラに出てくる王子様も、ゴクラクチョウと同じじゃん。だって、シンデレラってさ、勝手に”門限だから帰りまーす”って、手を振り解いて消えたふとどきな娘だよ?舞踏会の後も、シンデレラの中では王子様とのダンスは良い思い出止まりだったよね。でも、王子様はガラスの靴を国中の女の子に履かせて、シンデレラを探したんだよ。ストーカーレベルの激ヤバなヤツじゃん。ね?」 「あー、まあ、そうだな」 「うわっ!!何その、あからさまに面倒臭そうな相槌っ。あっ、そう。そういう態度。わたしが真剣に話してるっていうのにさ。そういうの、良くないと思います!」  少女はスッと立ち上がり、夜空に向かって真っ直ぐ片手を伸ばす。その姿勢のまま、わざとらしくアピールする。そして一拍置いた後、気が済んだのか同じ位置に座り直した。 「まあ、でも、仕方ないから許してあげよう。  ねえ、分かってる?仕方ないっていうことは、わたしが譲歩してあげてるってことだからね。恋愛だって同じ。”仕方ない”って口にしている方が譲歩してるんだよ。”仕方ない”で誤魔化せるほど幸せで、”仕方ない”で許すしかないほど失いたくなくて。天秤の傾きは、”仕方ない”の数と比例してると思うんだ」 『昨日、急に後輩と飲みに行くことになってさ』 『そう、じゃあ仕方ないね』 『今日、友達に誘われちゃってさ』 『そう、なんだ。じゃあ、仕方ないね』 『明日、天気悪そうだし、ドライブするの中止な』 『そう、楽しみにしてたんだけど。でも、仕方ない、かな』  ―――――ああ、そうかも知れない。  いや、そうなのだろう。  今まで、「仕方ない」という言葉を何度も耳にしてきた。  ずっと、「仕方ない」という言葉を何度も口にさせてきた。  その言葉の意味を、まったく考えもせず。
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