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 少女が視線を落とし、自然と垂れ下がる前髪で表情が見えなくなる。 「でもね、仕方ない訳がないじゃん。それに、仕方ないでは止まらない」  再びこちらを向いた少女の眼は、やはり、吸い込まれる様な漆黒だった。 「天秤を振り切る様な思いは、すっごく重い。重くて、重くて、どこまでも落ちて行く。どんどん沈んでいって、光なんか、ぜんっぜん届かなくなる。  源氏物語でもそう。六条御息所と光源氏の天秤がどっちに傾いていたかなんて、日本中のみんなが知ってる。もうさ、六条御息所の方に全力で傾いて、その勢いで天秤がグルグル回るくらい。最初はさ、光源氏は若いから仕方ないとか、一応奥さんがいるから毎日来れないのは仕方ないとか、そんなことを言って余裕ぶってたけど。最終的には生霊になって、奥さんを憑き殺してしまう。まあ、光源氏に当り散らしたり、文句言ったりせず、泣き崩れる事もなく、自己完結だったけど。リアルなら、物語じゃなくて、自分自身に起きたとしたら、どうなるんだろうね?」  少女の問い掛けに応えることもせず、自分自身に起きた事を思い出す。  天秤は彼女の方に大きく傾いていた。それを都合良く、自分勝手に解釈して、自己満足を繰り返して、重さに耐え切れなくて、気付かないふりを続けた。 『もう、何で分かってくれないの!?』 『分かってるって、だから、今ここにいるんだろ?』 『そうじゃない!!』 『じゃあ、どうしろって言うんだよ』 『―――――もう、いい』 「伝えたくても、伝わらなくて。  分かって欲しいけど、分かるはずがないと思っていて。  離れたくないけど、傷付けたくなくて。  でも、捨てられなくて。  自分に嘘は吐けなくて。  息ができなくなって。  胸の奥がズキズキ痛くなって。  パリンって。  わたしの中心で、心の壊れる音が鳴り響いた」
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