0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
※
逃げる様に電車に飛び込む。
平静を装いサッと社内を見渡すと、終電の乗客は駆け込んだオレの事など誰も気にもとめていなかった。
シートに沈み込み、急いで荒い呼吸を整える。
数瞬後、ガタンと揺れて電車が走り出した。ゆっくりと、誰もいない駅のホームが遠ざかっていく。その光景を目にしたとき、思い出したかの様に左の頬がジンジンと熱を帯び始めた。
何がどうなったのか分からない。
いつものように、いつもと変わらず、いつもと同じことをしただけ。それなのに、いつもと違う事が起きてしまった。どうして、こうなってしまったのか。
目を閉じて今日の彼女を思い出し、思考の海に溺れる。
どうにか意識が浮上したのは、慣れない駅名が鼓膜を震わせたからだった。
改札を抜け、見慣れない風景を目にして大きくため息を吐く。自宅のワンルームマンションがある駅から、2つも乗り過ごしていた。寂れた薄暗いロータリーにタクシーの姿は見えず、再び大きくため息を吐く。
朝まで時間を潰す所など見当たらず、タクシーがいつ通るかも知れないメインストリートまでもかなり距離がある。歩くしかない。2駅分。スマホの地図アプリを確認すると、徒歩で1時間と表示された。この辺りに土地勘はないが、ナビに任せれば迷子になることもない。それに、今日は歩きたい。知らない道を、暗闇の中をひとりで惑いたい気分だ。
もう一度ナビで方向と道を確認し、スマホをポケットに入れる。駅の短い階段を下りて、狭いロータリーを横切った。
最初のコメントを投稿しよう!