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act.6
月曜の夕方、稲見に呼び出されて柾冬は仕事帰りに馴染みの小料理屋の暖簾をくぐった。
「で?修羅場の後はどうなった?」
カウンター席に着くなりそう言われ、柾冬は苦笑する。
「ちゃんと捕まえたよ」
柾冬が女将からおしぼりを受け取り、酒の注文をし終えると稲見が言う。
「本気なのか」
「もちろん」
稲見は声を抑えて言う。
「高校生だろ?」
「関係ない」
「しかもあれは……」
そこで稲見は複雑な顔をする。
「確かに相当な美人だが、なんていうか……俺だったら絶対無理だな。人間離れしてて、綺麗すぎて怖いくらいだ。あれでまだ18だなんて……」
「猫だと思えばいい」
サラッとそう言って柾冬はお通しの小鉢に手をつける。
稲見は目を丸くしたあとで苦笑した。
「引っ掻かれたら相当痛いぞ」
「確かに痛いけど……」
そこで柾冬は遠くを見る目をした。
「もう手遅れだ」
初めて互いの名前を呼び合った週末、柾冬はこれまでしてきた恋愛はなんだったのかと思うほど、自分が彼に溺れていることを自覚した。
気持ちを抑えられない。
確かに最初から彼が高校生だと知っていたらこうはなっていなかったかもしれない。
わざわざ学生に手を出すほど相手に困っているわけでもないし、ややこしいのはごめんだ。
だが、言葉も交わさずに体を重ねて、彼のあの瞳に捕らわれてしまったら、もう後戻りなんてできない。
あの夜、連絡先を交換し、柾冬は綾に部屋の合鍵を渡した。
「使わなくてもいいから持っていてくれ」
ソファで抱き合い、キスを交わしながら柾冬が言うと綾は甘い吐息とともに小さく頷いた。
「約束で縛ったりしないから、いつでも好きな時に来てくれ」
耳元に唇を寄せて囁くと、綾は小さく笑った。
「なんでそんなに俺に甘いの?」
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