act.1

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「正直、戸惑う」 ウイスキーのグラスを傾けながら柾冬(まさと)がそう言うと、隣に座っている稲見(いなみ)は意外そうな顔をした。 「おまえが?あり得ないだろ」 「……いや、本当に」 小さく苦笑してみせる柾冬を見て稲見は目を丸くする。 「百戦錬磨のおまえが、ねぇ」 「相手が何を考えてるのかさっぱりわからないんだ」 「ふぅん」 稲見は琥珀色の液体が入ったグラスを手で回し、氷を鳴らした。 「もっと知りたいし、もっと一緒にいたいと思う。でも距離を詰めようとすると逃げられる」 「もっと一緒にいたいんだ?」 「ああ」 稲見はグラスに向けていた視線を柾冬に移す。 「いつも求められるばっかりだったおまえが、初めて追う側になったわけだ」 「調子が狂う」 柾冬の居心地悪そうな顔を見て稲見は声を上げて笑った。 「いい気味だ」 「ひどいな」 「普通は恋したら戸惑うし、調子なんか狂いっぱなしなんだよ。今までのおまえが普通じゃなかっただけ。ん?まてよ」 稲見は黒目を上に向け、考えるそぶりをした。 「なんだ」 「おまえ、もしかして今回のが初恋なんじゃないか」
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