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「正直、戸惑う」
ウイスキーのグラスを傾けながら柾冬がそう言うと、隣に座っている稲見は意外そうな顔をした。
「おまえが?あり得ないだろ」
「……いや、本当に」
小さく苦笑してみせる柾冬を見て稲見は目を丸くする。
「百戦錬磨のおまえが、ねぇ」
「相手が何を考えてるのかさっぱりわからないんだ」
「ふぅん」
稲見は琥珀色の液体が入ったグラスを手で回し、氷を鳴らした。
「もっと知りたいし、もっと一緒にいたいと思う。でも距離を詰めようとすると逃げられる」
「もっと一緒にいたいんだ?」
「ああ」
稲見はグラスに向けていた視線を柾冬に移す。
「いつも求められるばっかりだったおまえが、初めて追う側になったわけだ」
「調子が狂う」
柾冬の居心地悪そうな顔を見て稲見は声を上げて笑った。
「いい気味だ」
「ひどいな」
「普通は恋したら戸惑うし、調子なんか狂いっぱなしなんだよ。今までのおまえが普通じゃなかっただけ。ん?まてよ」
稲見は黒目を上に向け、考えるそぶりをした。
「なんだ」
「おまえ、もしかして今回のが初恋なんじゃないか」
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