act.1

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そんなバカなと思ったが、あながち間違いではないのかもしれない。 ーー俺が? 初恋? この歳で? 「あの」 パソコン画面を見ながらキーボードを叩いていた柾冬は後ろから声をかけられて振り向いた。 「午後の会議で使う書類、準備できました」 同僚の女性が差し出した書類を受け取り、柾冬はごく自然に微笑んだ。 「ありがとう」 長い髪の清楚な同僚は柾冬の笑顔を見て頬を赤らめた。 「作業中失礼しました」 ぺこりと頭を下げて足早にその場を後にする女性を見て柾冬は考える。 子どもの頃から男性、女性問わずモテてきた。 こちらにそんなつもりはなくても、相手は今の女性のように柾冬の何気ない笑顔に魅了されてしまう。 今までしてきた恋愛は全て相手からのアプローチで始まったし、別れをきり出すのはいつも柾冬の方だった。 これまでに女性とも男性とも幾多の恋愛をしてきたが、柾冬は常に受け身で、自分から相手を誘うことはほとんどなかった。 ましてやこんなにもひとりの人間のことだけを想ったり、求めたりするなんて初めてのことだった。 気まぐれな彼が柾冬の部屋を訪れるのは週末の夜だけだ。 それが金曜なのか土曜なのか、それとも今週は来ないのか、柾冬には知る由もない。 連絡先はおろか、互いに名前や年齢さえも明かしていないのだから。 いつ現れるかわからない彼のために、柾冬はすべての週末のスケジュールを空けていた。 たとえそれが空振りに終わったとしても。
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