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夜半、濃密な時間を過ごしたふたりはどちらからともなく深い眠りに堕ちていった。
気まぐれな彼は、朝にはいつも柾冬の腕の中から消えている。
今まで数回ここで抱き合ったが、彼が泊まっていったことは1度もない。
柾冬が眠りから覚めると隣に彼の姿はなく、バスルームにはシャワーを使った形跡がみてとれた。
そして、
彼の好物のパスタも綺麗に消えていた。
柾冬はキッチンのコンロの前に立ち、彼のことを想う。
昨夜、激しく抱き合うなかで彼に噛まれた右人差し指がじんと痺れた。
乱暴に巻きつけただけの包帯に触れると、するりと外れて足元に落ちる。
それはまるでこの腕の中に閉じ込めようとしても易々とすり抜けていく彼を見るようだった。
毛艶の良い美しい黒猫は自由奔放で捉えどころがない。
足元に広がる包帯を拾い上げようと身を屈めた時、稲見の言葉が頭の中に浮かんできた。
ーーもしかして今回のが初恋なんじゃないか?
柾冬はチリリと疼く指を見つめながら苦笑した。
だとしたら相当厄介なことになりそうだ。
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