僕のお兄ちゃん

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僕のお兄ちゃん

俺さ、大好きな兄貴がいたんだ。 でも俺が3歳くらいの時に火事に巻き込まれて死んだんだって。 全然顔なんて覚えてるはずないよな。 でも今でも兄貴の顔をしっかり覚えてるんだ。 これは俺が小学一年生の頃の話さ 「かぁさん!僕川に遊びに行ってくるね!」 住んでたところは結構な田舎。 すぐ近くには川があった。 その川にはさ炎の神様がいるって話だったんだ。 変だよなぁ、川に炎の神様がいるんだから。 それでさ、此処の川の神様の怒りに触れると火事が起こるって昔話があった。 そんなの普通信じないよな、俺だってそうだ。 「ふんふふーん」 その日はいつもやってた草むらの探検をしてた。その時だった。 「わっ!」 グシャッ ベビを踏んづけちまったんだ。 「蛇さん!ごめんなさい!」 俺は心配になって蛇を見た。 でも、もう蛇は死んでた、怖かったよ。 俺が殺しちまったっていう罪悪感がすごくてさ。 もう今日は家に帰ろうって思って草むらから出ようと走ったんだ。 「あれ?」 でもいくら走っても、走っても出れやしねぇ。 なんで?って困惑しながら走り続けたよ。 走り出して、10分ぐらい経った時だったかな? 「こっち」 にいちゃんの声が聞こえたんだ。 その当時俺はお兄ちゃんは遠くへ行ったとしか聞かされてなかったからさ、帰ってきたんだって思った。 そりゃちっせぇやつにお前の兄は死んだなんていえねぇだろ? 「にいちゃん?」 俺は声が聞こえた方向に向かって聞いた 「そうだよ、ほらこっちへ来て」 俺は声が聞こえた方向に近づいていった。 そしたらやっと草むらから出られたんだ。 そしてそこにはにいちゃんが立ってた。 「俺についてきて」 そう真剣な顔をしてにいちゃんが言うもんだから。俺は頷いて大人しくにいちゃんについて行ったんだよ。 そしていきなり止まったかと思えば。 「俺が走って行ったら家に向かってすぐ走って」 そう言ったんだ。俺は思わず 「にいちゃんは?一緒に行かないの?」 って聞いた。 「…俺も後で行くよ」 にいちゃんはそう静かに言ってた。 今思い返せば、悲しそうな、悔しそうな顔をしてたよ。 「…走って!」 にいちゃんの声と共に俺は走り出した、今まで出したこともないくらいのスピードで。 やっと家の前に着いたから後ろを振り向いたんだ。 そしたらどんな景色だったと思う? 河川敷が燃えてんだ、俺がさっきまでいた草むらが。 「にいちゃん?」 でもにいちゃんはさっきと同じ場所に立ってた。 俺は訳がわかんなくてずっとにいちゃんの名前を呼んでにいちゃんがこっちにくるのを待ってた。 でもさ、おかしいよな?火の中に人なんて立てないんだよ。 それで俺は気づいちゃったんだよ、もう俺の大好きだったにいちゃんは… にいちゃんは、んだって。 俺の目に映るにいちゃんはさ、ずっと…ずっと、火の中で優しく微笑んでるんだよ…。 涙が出たよ、止まんなかったよ。 あぁ…にいちゃんは俺を助けてくれたんだって。 「にいちゃん…ありがとぉ…ありがとぉ…」 俺はずっとにいちゃんに向かってありがとうばっかり言ってた。 その間もにいちゃんはずっと微笑んでる。 川からは距離があるのにさ、しっかり見えるんだよ。 綺麗なにいちゃんの髪の毛、お気に入りって言ってた帽子、星みたいに綺麗な目。 俺はずっとにいちゃんがこっちにくるのを待ってたよ。 でもさ突然にいちゃんが俺に向かって手を振り始めたんだ。 それと同時ににいちゃんの体も透けてく。 「やだ…」 お別れだよ。 もう2度と会えないって思って、嫌だってずっと言い続けた。 「にいちゃん…やだよ…行かないでよ…」 その時にさにいちゃんがなんか言ってたんだ。 声は聞こえないけどさ、なんかわかるんだよ。 にいちゃんはさ… 「 」 って言ってたんだよ。 そんなの辛いじゃんか。バイバイじゃなくてまたねって言ってよ。 もう一回声が聞きたいよ、行かないでよ、名前呼んでよって、いろんな気持ちが溢れ出てきて、俺はただひたすらに泣き続けた。 行かないでなんて無理な話だけどさ、俺の唯一の兄弟なんだよ。 少しでも見るのを辞めてしまったら消えてしまいそうで、俺はずっと見るのを辞めなかった。 でもさ、瞬きしちゃうんだよ、涙でにいちゃんが見えなくなるから。 でも次に目を開けたらもう、にいちゃんはいなかった。 今でもあの場所を見ると思い出す。 もう2度と川には近づかなかったよ。 この話が嘘か本当かなんてどうでもいいだろ? あれがもし夢だったとしても。 俺とにいちゃんの思い出なんだから。
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