きみとぼくの歪んだ初恋

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宮村ゆうは九条貴斗に恋をしている。 少し前に新築した校舎。 学生棟から少し離れた図書室。 放課後になると純文学の書棚に一人たたずむ彼がいる。 艶のある黒髪とアーモンド形の綺麗な黒い瞳の穏やかな先輩。 九条貴斗先輩。ゆうの大好きな人。 「先輩っ」 「こんにちは。またきたの?」 本に寄せられた九条の視線がちらりと上げられこちらを見る。 こくりと一つゆうが頷くと九条は本を閉じて書棚に戻した。 放課後になるとやってくる後輩と 時々こうして無人の図書館でとりとめのない話をした。 「本借りないの?」 「借りない」 「図書館なんだから一冊くらい借りればいいのに」 「やだ。だって先輩の仕事増えるでしょ」 ぐったりと机に上体を横たえてちらと九条を見上げるゆうの緑の瞳。 色素が薄く童顔な彼には甘えるような態度がよく似合った。 「僕は図書委員だから」 「先輩の好きな本は?」 「あの棚ぜんぶ」 「ふぅん」 定位置となった純文の書棚を見遣るゆうの目は うろんで、さして興味はなさそうだ。 気まぐれに本を取り出してみても ぱらぱらと数ページめくっただけで閉じてしまう。 どうやらこの後輩は本が好きではないらしい。 「なんで僕なんかに声をかけたの?」 「いつも静かだから気になって。  ……そのうち仲良くなりたいって思ってたんです」 「そうなんだ」 返却された図書を決められた位置に戻していく。 他の委員が嫌がるその作業も図書館を好んで とどまる九条にしてみれば慣れたもので 本は定められた位置に整然と戻されていく。 その様子を後輩は机に伏せたままじっと見つめている。 「先輩、四月には居なかったですよね」 「うん。転校してきたから」 「どうして?」 「……どうしてかな」 あからさまにはぐらかされゆうはむっとした様子で 視線を机の木目へと落とす。 九条は言いたくないことは笑うだけでほとんど口にしてくれない。 狭い田舎だ。転校したって距離はしれている。人の口に戸は立てられない。 ゆうとて彼の噂は知っていた。そのことをきっと九条も分かっている。 分かっていて口を閉ざす九条の華奢な背は少し震えてみえた。 「俺は先輩にひどいことしないです」 「うん。知ってる」 「ねぇ……先輩の口から話してくれないんですか?」 「話したくない」 「わかりました」 ゆうが乱暴に立ち上がったせいで椅子が大きく音を立てる。 暴力に臆病ゆえに過剰に反応してしまった九条は本を一冊取り落とした。 背後の気配が怖くて振り返ると後輩であるゆうは ナイロン製の横掛け鞄を持ち上げて速足でドアの前まで歩き去る。 「今日は帰ります」 また来ます、そう言って消えたゆうは音もなくドアを閉めて出ていった。 九条は震える手で取り落とした一冊を拾う。 『彼も軽蔑するのだろうか』 諦めに近い自己嫌悪とフラッシュバックする恐怖で 目の前が真っ暗に塗りつぶされる。 『ねぇ、九条』 無遠慮に触れる手の熱さを思い出し 身体を強張らせ、しゃがんだまま動けなくなる。 彼は、彼らは幼い自分の過去を知っていた。 『お前、男に可愛がられたってホント?』 無理矢理に撫でられた頬の感触に怖気が走る。 好奇の視線、荒い息。下卑た笑い。 一度スイッチが入ると勝手に記憶は駆け巡る。 過去と今ある現実の境界がなくなる。 擦り切れるほど思い出しても消えない男の顔と優しい今の家族の言葉。 ただ、養子として迎えてくれた あの老いた夫婦にこの事実を知られたくなかった。 だって九条は今を生きると決めたのだから。 彼らは何よりも大切な家族なのだから。 たったそれだけの思いが九条に選択を誤らせた。 正直、前の学校で輪姦された時の記憶はあまりない。 ただ耐えていたうちに終わり 最中の写真や動画が流出して騒ぎが大きくなった。 手続きは全て九条の家がやってくれた。 本家を束ねる彼らはただ九条に優しくしてくれた。 『もう怖い思いはさせないからね。気付いてあげられなくてごめんね』 泣いているだけの九条を抱きしめる老いた養父と養母の皺だらけの細い腕。 その温度は暖かくてただただ彼らの期待に応えたいと思えた。 だから言われるがままに転校をした先での 遠巻きにものを見る人の反応にもどうにか耐えられた。 『貴斗さん、あなたはいい子よ』 涙をこらえながらそう言ってくれた養母は本当にいい人だ。 もう裏切れないと思った。 それなのに。 「また来ていいですか?」 微かに熱を帯び、不安げに揺れる。 そんなおずおずとしたゆうの緑の瞳が忘れられない。 冷えた空気が充満する空き教室。 夕日は既に傾き教室は橙に染まっている。 雑多に積み上げられた資料と机。 それに紛れるようにゆうは背の高い男に押し倒されていた。 「んっ」 「何考えてた?」 「なにも」 くすくすと笑いながらゆうがシャツから腕を引き抜く。 生白い肢体が露わになると男は色づく桃色の乳首に歯を立てる。 「っふ、ぁ」 漏れ出る甘い声と共にゆうが誘うように両手を首に回すと 今度は唇に生温かい感触が触れ、舌を絡ませた。 飲み込みきれなかった唾液がゆうの口の端から伝い落ちる。 身体から力が抜けたころようやく解放され ゆうは口の端を舌で拭いながら男を見上げた。 「せんぱい、はやくしよ?」 「相変わらずえっろいなお前」 腰を揺らめかせズボン越しに中心を擦り合わせると 簡単に相手に足を割り開かれる。 突起を引っ張られ赤くなるまで舌で吸われてむすがると 下肢も脱がされ口に指を押し込まれる。 慣れた行為に指の間まで丁寧に舐めれば、内側に指を一本挿れられる。 確かめるように動く感触は未だになれずに締め付けてしまう。 「なにお前また締まり戻った?」 「んっ。今日慣らしたけど……ッ」 「にしては中きっついな。足抱えてな」 「あっ、もっ、ちょっと。っふ、ぁ……あっ、ぅ」 指を二本に増やされ言われるがままに両足を抱えるとゆっくりと拡張される。 不安定に艶っぽい声をゆうが上げると 先輩はからかうように笑って前立腺を押しつぶす。 「ああっ、先輩それっ、やぁ」 「勃ってるぞ」 「ぅー、ああっ、あっ、待って。待ってってばぁ」 とろとろと先走りを零しながら甘えた声で腰を揺らめかせる。 もう足を持っていられなくて男の首にまた伸ばすと とびきり甘ったるい耳元で囁く。 「九条先輩より俺の方がいい?」 「なに、嫉妬?」 「うん」 当然のように頷けばキスをされる。 絡ませ唾液を舌の上で転がせば指をばらばらに動かされ 堪らなくなって身体が跳ねた。 「お前可愛いよ。えろいし」 「っぁ、うっ」 可愛がるように頬や耳、唇とついばむようなキスを贈られ 思わずゆうは笑った。 この人と恋人まがいの関係を始めたのは一週間前。 九条を追う彼の視線に気が付いたからだ。 ゆうが知る熱をその視線は帯びていた。 恋慕の情だ。 それは力押しで九条の身体だけを望む相手より タチの悪い部類の相手だとゆうは理解し近づいた。 彼らの心から九条を奪うのはとても難しい。 実際彼もゆうが告白した時、否を唱えた。 しかし完全に突っぱねられる前に 身体の関係に持ち込んだのは他ならぬゆうだ。 人間は欲には中々逆らえない。その日、彼はゆうに落ちた。 それからずるずると関係を続けているのだから きっと彼は九条に手を出せないだろう。 『この人は関係をとても気にする』 ゆうとの関係を清算しない限り前に進むことはまずあり得ない。 「ぁっ、あっ、せんぱいっ、はやくちょーだい?」 「煽るなって」 「あっ、なか、はいってく、っふっ、ああっ、ぁっ」 入り込む熱に呼吸が整わない。 力は幾分か抜けるようになったが放っておけば 身体はすぐに慣らした柔らかさを忘れて きつく戻ってしまうからいつだって誰かを受け入れる時は苦しい。 下腹部にじんわりとした熱と鈍い痛みが溜まっていく。 男はと言えばそんなゆうを見つめてゆっくりと欲を中に沈めていた。 睾丸が結合部にあたる感触がしてようやく全てを飲み込めたと分かると ゆうは待ち受けるであろう激しい律動の衝撃を受け入れようと目を瞑った。 「動いていい?」 「んっ」 ゆっくりと腰を動かされて、びくりびくりと身体が跳ねる。 まるで愛情を重ねるような優しい行為にゆうは時々この男が嫌になる。 それはどうせなら性欲に任せて使い捨ててもらった方が こちらの罪悪感も面倒事も少なくて済むという ゆうの身勝手さから来る理由なのだが。 「ひ、ぁっ、中……もっと擦って?」 「でもゆっくり深く突くのも好きだろ?」 「ぅ……はぁ、あっ、先輩も気持ちよくなってくんなきゃヤだぁ」 「だから煽るなって」 「ああっ、それ、もっとぉっ……んぅっ、あっ、ああっ!」 中を抉るように性感帯を擦られると先ほどとは 比べ物にならない快感が押し寄せる。 制御しきれる快楽をじんわり分け合うのは嫌いだった。 まるで心まで輪郭を失くして溶け合うような セックスは愛情を感じて怖くなる。 そんなものを与えられても、確認されても ゆうは持ち合わせていないのだから。 優しいセックスより身体を割り開かれて 無茶苦茶にされる行為の方が幾分か罪悪感はなくなる。 中がぐずぐずになるまで深い場所まで抉られ、男の性急な律動に応えれば いつしか生理的な涙で視界がぼやけ弱い場所を突かれた瞬間、 簡単にゆうは絶頂する。 「ああっ、せんぱ、あっ、まって、まだイってッ、またイっちゃ  ……あああっ!」 「ホント身体はすぐ戻るのに感度だけはいいのな」 「もっ、やだっ、やぁっ。ああっ、あぅ、あっ、ああっ、あッ」 収まることのない快楽に身体を引き攣らせながらゆうは何度も絶頂を迎えた。 勃ち上がったそこは白く塗れた体液を断続的に滴らせてゆうの腹を濡らす。 男が精を吐き出し終えてもゆうは ひくりひくりと喉を鳴らすばかりでしっかりとした返事をしない。 「あー……ごめんな、ゆう」 性器を抜かれ、頬をゆっくり指の腹で撫でられる。 それだけでも感じるのが辛い。 あまつさえ男はゆうの勃起した性器に 手を伸ばすのだからゆうは本気で泣きじゃくった。 「やっ、やだぁ……ぅ、あっ、ああっ、い、っ、ああっ!!」 何度か亀頭を撫でられるだけで既に限界だったそこはすぐに欲を吐き出した。 ぐるぐるとわだかまっていた熱が少しだけ収まる。 獣のように荒い息を殺せず両手で顔を覆ったゆうは ぐったりとしたまま剥き出しにされた感覚が落ち着くのを待った。 制服に袖を通しながらゆうはぼんやりと窓の外を眺めた。 図書館のある棟がこの窓からは小さく見える。 今日は彼に会いに行けなかったこと少しだけ残念に思った。 「なぁ、ゆう」 「はい」 シャツのボタンを一つ一つ確認し終えてゆうは顔を上げた。 「やっぱりさ、付き合えない?」 「……」 「身体だけとか俺は無理だよ。なぁダメかな?」 「はぁ……けど俺、約束されたら断りませんよ」 不機嫌そうな声で髪を掻き上げると男は何か言いたげだった口を閉ざして 視線を落とした。 この沈黙には慣れている。はやくこの人も俺を切り捨てればいい。 ゆうはそう思って目も合わせずに続きを待った。 「……頼めばヤらせてくれるって噂、本当なの?」 「そうですよ。みんな可愛がってくれます」 「でもそれってただの性欲処理だよな。お前それでいいのか?」 「逆に愛情とか要らないんで。きもちいいだけで良いじゃないですか」 腰かけていた机から降りて首を傾ぐ。 信じられないという顔でゆうを見下ろす男がいた。 もっと幻滅してほしい。 そう思って男に近付き唇が触れ合うか触れ合わないかの位置で向き合った。 「次する時、なんだったら先輩の友達も呼んでもらってもいいんですよ?」 その瞬間、男はゆうを引きはがすように薄い身体を突き飛ばした。 盛大な音を立てて尻餅をつきながらゆうはのろのろと身体を起こす。 顔を上げれば逃げるように出ていく先輩の姿が見えた。 「っく、あははは!」 笑い声を噛み殺そうとするが上手くいかず伽藍な教室に乾いた声を響かせる。 あの程度の気持ちで九条に近づけると思ったら大間違いだ。 勝ち誇る様な思いで服を整え鞄を肩にかける。 この程度で揺らぐ恋慕などに自分の苦情への想いが負ける筈がない。 「九条先輩は俺のだから」 絶対に彼を汚させない。 彼が汚れるくらいなら彼を狙う奴らは全員自分が絡め取る。 それがゆうなりの九条の愛とも呼ぶのも難しい。 歪んだ一途な恋とも言えない拙い彼への思いの表し方だった。 陰鬱とした夜の闇が忍び寄る校舎には誰もいない。 ふと鞄に突っ込んだままになっていたスマホが振動する。 『明日の放課後、いつもの場所で待ってる』 今日の相手とは違う男からのメールだった。 求められていることは分かっている。 九条に汚い欲望が向かわないならばゆうはそれで良かった。 ああ、誰にも彼を奪われたくない。 醜い嫉妬が膨れ上がる。 「あれ……ゆうくん?」 下駄箱から靴を乱暴に取り出した時、廊下を遠慮がちに揺らす声がした。 欲していた暖かな声色。 まばらに灯るほのかな電灯の下、九条が立っていた。 「あ、先輩」 「今帰り?」 「はい……忘れ物して。今から帰ります」 「じゃあ一緒に帰ろうか」 頷くと九条は少し笑んだ。 七月の夜はしっとりと湿気を含んで重苦しいほどの熱さだった。 話したいことはたくさんあるのに言葉が出てこない。 ただただ跳ね上がる鼓動を抑えながらゆうは九条の隣を歩いていた。 「ねぇ、ゆうくん」 「はい」 「最近忙しい?」 「……まぁそこそこに。どうしてそんなこと聞くんですか?」 「図書室来ないからどうしてるかなって気になって」 「また行きます」 「無理して来なくていいんだよ」 「行きます!」 意地になって答えると九条が朗らかに笑う。 子供っぽかっただろうか、少し反省して唇を噛んで目を伏せると ゆうはまた静かになる。 「ごめんね、笑って」 「いえ」 「ねぇ、ゆうくん。僕が転校してきた理由知ってる?」 ふいに待ち望んだ話題を振られてゆうは驚く。 笑んではいるが九条の唇は白く、血の気がない。 語気は少しだけ震えていた。 「……まぁ。ペットだった、とか。そういうのは聞きました」 直接の言葉を聞きたくて曖昧に返せば九条の悲しげな笑みが少し深くなる。 この顔はよく知っている。 人を突き放そうとするときに彼がよく受かべる表情だ。 「あれね、本当のことだから。昔ね、男の人にいたずらされててさ。  そのこと知られたくなくてその……ペットになるっていうのに頷いたのは  僕なんだ」 「でもそんなの……っ」 「理由はどうあれ同意の上での行為だよ。  軽蔑したよね? だからもう僕には」 「いいえ」 泣きそうな顔で隣を歩くゆうは言葉を遮った。 その瞳が不安に揺れるのを見ると九条も少し悲しい気持ちになる。 「ごめんね、僕ね。今でもその……  気持ちいいと怖くてわけがわからなくなるんだ」 九条がぽつりと呟いた。握りしめた拳が震えている。 血の気を失った九条の横顔をゆうはじっと見つめていた。 整った九条の顔が欲に蕩ける様を想像して罪悪感がぞくぞくと這い上がる。 この人に触れられた男が羨ましい。妬ましい。そして何より恨めしい。 九条が欲しくてたまらない。 それなのに彼を怖がらせたくない。 二律背反の想いがゆうを満たす。 気が付くと九条の右手を強く握りしめていた。 自然とその手は緊張で震える。 「……あのっ」 「うん」 「少しだけこのままがいいです」 「……泣いてるの?」 「泣いてないです」 ぐすっ、と鼻を鳴らしながらゆうは俯いた。 まだ少年の柔らかなラインを残した頬からは涙がぽろぽろ零れ落ちていく。 「俺は、認めないです」 「うん」 「そんなの同意じゃない」 「……うん」 「それに俺は、俺だけはあんたのこと軽蔑したりしない。  それだけは覚えといてください」 「……ありがとう」 睨むような強い視線のままゆうは目元をシャツの袖で拭った。 まだ涙が止まらない。 九条は穏やかな顔のままゆうを見守っていた。 握った手の震えは止まっている。 「でも、あんまり僕に執着しないでね。きっと迷惑かける」 「え?」 きょとんとしてゆうが顔を上げると九条は優しく ゆうの色素の薄い茶色の髪を梳いた。 「好きになったら離せなくなっちゃうから」 困ったような微笑の奥に確かな狂気を見る。 少し掠れた声のざらりとした感触がゆうの心を撫でた。 もっとこの人に執着されたい。 どきどきと高鳴る鼓動を抑えきれずゆうは気を抜けば のろくなってしまいそうな自分の足を叱咤して必死に彼の歩みを追いかけた。 「そんなの関係ないです。俺、絶対会いにいきますから」 「明日?」 「ら、来週」 「そっか、待ってる」 九条の優しい笑みが胸の奥底で揺れる。 この人が笑えるならいくらでも他の人間に身体を明け渡してしまえた。 ギシギシと忙しなく響く音にゆうは目を瞑った。 体育館倉庫はむせ返るように暑い。 よくもまぁこんな場所を指定したものだ。 脳筋の考えることは本当によくわからない。 跳び箱に手を付き半ば縋りつくようにして喘ぐ。 性器が出入りするたび腰が跳ね、 勃ちあがった性器が腹に擦れて苦しくなってくる。 「なか、なかおかしくなってる!  待って、まってよ、これ、っやだぁ……ッ!」 足はがくがくと震え立つことすら覚束なくなってきた。 もう何人に挿れられたか分からない。最初は三人だった。 そこはしっかり覚えているが入れ替わりに人が入ってきたのもあって 今は何人の相手をしたかが思い出せない。 部活棟のシャワー室が使えるからと 遠慮なく顔にも髪にも白濁をかけられてからは 抵抗らしい抵抗もしなくなっていた。 べたべたとぬめる体液を煩わしそうに口で、舌で受け止めながら犯される。 「まだいけるって」 「あっ、ぐ、ぅっ……むり、むりぃ……っ!」 「次、俺ね」 「ひあっ……!」 性器を抜かれた後孔から泡立った精液が溢れる。 それに栓をするように新たな肉棒を挿入されると ゆうの全身が痺れるように引きつった。 「ぅっ、やぁ、やらぁ……っ」 行き過ぎた快感に耐え兼ね、膝から崩れ落ちる。 ゆうは子供のようにしゃくりを上げながら泣いて 身勝手な律動を受け入れながらもいやいやと頭を振った。 「あーぁ、泣いちゃった」 「こいつ気持ちいいと泣くんだって」 「そうなの?」 背後から抱かれるようにして男の膝に座らされる。 腰を掴んで乱暴に打ち付けられると自重で深く男根が突き刺さった。 「ひぅ、あっ、あぁっ、ぃっ、ぁぅっ……!」 もうまともに言葉を発する余裕がない。 ゆうはぼろぼろ涙を零しながら 喘ぐだけの人形になってしまったような気分になる。 がつがつと内側を刺激される度、何度も達した。 奥を突かれると全身が痺れるような快感が断続的に湧き起こり、 相手に主導権を握られるこの体勢はひどく深い場所まで入り込まれる。 「なぁ、ゆうくん気持ちいい?」 「やっ、ああっ……!」 身体を逸らして甲高く喘ぐと だらだら先走りを零した中心に直接触れられ身体に震えが走る。 「ま、てっ、まって、だめ、いっぺんにしたらっ」 「しないって、まだ」 背の割に軽い体を持ち上げられて性器を内側から引き抜かれる。 圧迫感がずるずる抜け落ちる感触にすら声が上がった。 「ぁ、あっ、や、やめ、っ……だめ、むりだってッ」 「いけるいける。イってる時のゆうくんの中すげー気持ちいいし。  ところてん見たい」 「鬼畜かよ。良かったじゃん、ゆう。先輩に気に入られて」 「むりぃ……っ、ほんと、もっ……イくのくるしいっ」 泣きじゃくるゆうを抱え上げた男はゆっくりと腰を支える手に力を入れた。 「イきたくないんだったらイかなくてもいいからさぁ」 ぐい、と少しだけ差し込まれた性器の感触に背がぞわりと戦慄く。 ああダメだ。挿れられる。 血の気を失った手足は冷えて力を失った。 「俺だけでもイかせてね?」 「あ、あぁっあああああっ!!」 行為で慣れ切った身体は簡単に男を受け入れる。 しかし、焼き切れるような快楽にゆうの身体は限界を超えた。 「あー、トんじゃった。でも中すげぇきもちいいね。たまには男もいいかも」 がくがくと内股を震わせて意識を飛ばしたゆうを抱きながら 男は腰を揺らして精を吐き出す。 「そろそろ片付けていくか」 「おう。っていうかこの子何人相手したわけ?」 ゆうを気に入ったのかしばしそのままの態勢で男は友人に尋ねた。 「……五人、くらい?」 「わぁ、結構タフだったんだ。無理って芝居かと思って無茶させたかも」 「大丈夫だろ、コイツいっつも何も言わないし。次も来るって」 身体をタオルで適当に拭き、簡単に身支度を整えさせると ゆうにも服を着せる。 「ぅ……」 「あ、起きた。おはよー」 「は、はい……ども」 若干怯えた顔でゆうが応えればもう一人の男が部室棟のカギを投げた。 床に落ちたそれを緩慢な手つきで拾うと声をかけられる。 「もう終わったから。シャワー浴びて帰れば?」 「そうします」 「俺も行くー」 「俺らは帰るの。ここの片付けあんだろうが」 「あ、そっか」 のんきなのか強引なのか彼らは本当によくわからない。 九条の噂を聞きつけすぐさま彼を犯す計画を立てていたというのに ゆうが身体を開けば途端にそんな計画忘れてしまったような様子だ。 確かに適当で乱雑ではあったが彼らの気遣いは優しい。 乾いてぺたぺたと張りつくような髪が嫌でタオルで頭を覆う。 「はぁ、ひどい目に遭った」 どうにか両足を動かして歩いているが正直感覚がない。 気を抜けば座り込んでしまいそうになる。 そして今更ながら下着をどろりと濡らす感覚に気付く。 最悪だ。 やはり彼らの気遣いには穴が多い。 「シャワー……」 苛立ちながら部室棟のカギを開けてさっさと服を脱ぎ散らかす。 生ぬるいシャワーを浴びれば少しだけ髪や顔に残った不快感が洗い流されて 中に出された精子も掻き出すとようやく安心して身体から力が抜けた。 シャワー室のタイル張りの床に座り込む。 「ホント勘弁しろっての」 明日は学校が休みでよかった。 そう思いながら苛立ちまぎれに立ち上がり、 鞄に仕舞い込んでいたタオルを出して身体を拭きながら更衣室へと出る。 脱ぎ散らかした服を拾い上げようとした先には――。 「なんでいるんですか」 「えっと……玄関からゆうくんが部室棟に行くのが見えたから」 「待ってたんですか?」 こくりと頷く九条に言いようのない愛らしさを覚えたがそれどころではない。 彼が自分から誰かを待つなんて今までなかったことだ。 そんな彼が初めてこの学校の人間に執着した。 その事実は嬉しかったが九条が言いにくそうに視線を逸らして 綺麗に畳みなおした服を指差す。 「今はその……服、着よう? そっち、畳んでおいたから」 気まずい、と言われてゆうは自分が何も身に着けていないことを思い出す。 慌てて下着を身に着け制服に袖を通して やっとほっとした顔で九条がゆうを見た。 「部活入ってたんだ?」 「いえ。暑くて汗かいたんで先輩に部室棟のカギ借りたんです」 「そうなんだ」 「まぁ。その……待っててくれたんですよね。一緒に帰りましょ?」 「うん……っ!」 言葉少なに九条が頷く。 彼の顔が微かに赤いのは先ほどゆうが裸体を晒したせいだろう。 『なんだかんだで育ちよさそうだもんな。この人』 養子とはいえこの辺りでは屈指の名家の跡取りだ。 生まれはどうであれ、彼の中に根付いた育ちは確かに上等のものを感じる。 なにせ立ち居振る舞いがどれをとっても美しいのだ。 そんなゆうの視線にも気付かぬ九条は心なしか ゆっくり歩いてぽつりぽつりと質問する。 「ゆうくんは部活入らないの?」 「……めんどいんで。先輩は?」 「僕は器用じゃないし、きっと学業に響くから」 「ふぅん、そうですかね」 「あ、あのっ」 「はい?」 急に九条が足を止めるので怪訝な顔でゆうもそれに倣う。 こちらをまっすぐに見る九条の表情が一生懸命で可愛いとすら思う。 「待ってるから……たまに一緒に帰ってもいい?」 「……まぁ、はい。むしろこっちがお願いしたい、です」 今度はゆうが言葉少なになって頷く。 九条のこういう無自覚で懸命なところがすごく好きだ。 胸の高鳴りが止まらなくなる。 体温上昇は意識しても止まらず、耳まで熱くなるのが分かる。 ふと九条を見遣れば彼の顔も赤い。 精一杯の勇気でゆうが九条の手に指を絡ませると彼は優しくその手を握った。
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