はるちゃんに笑みを

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 約束は12時、有名なうどん屋さんの前に集合だった。雨が降っていて、紺色の傘をさして駅から歩いた。  私は少し迷子になり、一度店を通り過ぎてまた戻ってやっと店に着いた。 「はるちゃんさんですか?」  短髪、黒髪、ダウンにジーンズのお兄さんが声をかけてくる。 「はい…」 「アズマです。雨の日にすいません。一度通り過ぎましたね。声をかけようか迷ったんですが…」 「方向音痴なもので…」  店の前にはすでに10人ぐらい人が並んでいた。 「並んでも大丈夫ですか?この店美味しいので、どうしても食べて欲しくて」 「大丈夫です。すごい人気のお店ですね」 「実は先輩に教えてもらいました」ふーん、大将こんなおしゃれなうどん屋さん知ってるんだ。  姉さんがどうしてもっていうから、そんな気持ちになれなかったけど、姉さんの頼みじゃ断れないし、と思って「一度だけですよ、向こうにも気を持たせたら悪いので、そう言っておいてください」と念押しをして、弟弟子さんと会うことになった。  15分ぐらい並んで入店した。話しかけようかなと思ったけれど、私はあえて黙っていた。  私はきつねうどんに鯛入りちくわをトッピングし、彼は釜玉うどんに舞茸の天ぷら3つを頼んだ。 「舞茸、三つですか。好きなんですね」 「うまいんですよ、ここの舞茸天ぷら、一つあげましょうか?」 「いえ、大丈夫です」  鰹出汁の効いた美味しいうどんだった。麺はもちもち系で太い。多分自家製麺だろうと思う。  彼は自分が全部払うと言ったが、私は断固として割り勘を主張した。貸を作りたくなかった。可愛くないと思われたって平気だ。  
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