はるちゃんに笑みを

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 次の目的地は寄席だった。というかこの寄席がメインだった。  歩きながらアズマさんが話しかけてきた。 「落語は好きですか?」 「ジュゲムと芝浜ぐらいなら知ってますが、あんまり知らないです」 「そうなんですね、僕は好きは好きなんですが、生では聞いたことがなくて、初めてなんで楽しみなんです」  ふーん、落語が好きなんだ。そう思ってアズマさんの横顔を見る。一重の切長の目に、細い眉。小さい顔で自然に少し口角が上がっているような、憎めない顔をしている。     寄席について席に座る。一番前の席の端の方だった。それでも舞台はもすごく近い。場内放送で今のうちにトイレに行っておいてくださいと声がかかる。 「トイレ行ってきますね」アズマさんが先に席を立つ。彼が帰ってきて 「私も…」と言って席を立つ。  トイレの鏡の前で自分の姿を見る。コウタくんの時と違う。あの時の私はもっとキレイ?だった?おしゃれしていた?メイクにも時間をかけた。  今日は、今日は、アズマさんには悪いけど、キレイじゃない。でもそれでいいと思っている自分がいた。これは一回だけ、彼もそう聞いているはず。  席に座り、お囃子がなり緞帳が上がる。少しワクワクした。数人若い人が出てきて落語を話した。面白いものもあれば、そうでないものもあった。声に出して笑った演者さんもいた。 「声に出して、笑ってましたね」中入りの休憩中にアズマさんがそういった。 「そうですね、面白かったから…」声に出して笑ったのって、久しぶりかもしれない。  最後の演者さんが終わった。お囃子がなって緞帳が下りた。最後の落語はちょっと長く退屈なところもあったのでウトウトしてしまった。 「どうでした、面白かったですか?」 「だいたい面白かったですけど、最後はちょっとウトウトしてしまって…」 「まあ、リラックスできたということで、いいんじゃないですか」アズマさんは笑顔を私に向ける。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!