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船出
「トール、ちょっと、こっちにおいで。」
「なんだい。かあさん。」
「あんたに頼みたい事があるんだよ。あの子をアザナレまで連れてってやってくれないか。」
「かあさん、アザナレって言ったら、ものすごく遠いんだぜ。その間、かあさんはどうするんだよ。」
「聞いておくれ、トール。かあさんはね、あの子と同じケセド様と言う方に育ててもらったんだ。ケセド様にはご恩がある。だから、あの子をケセド様の元に返してあげたいんだ。きっと今頃、ケセド様は心配しておられるに違いないし、このまま、あの子が一人でアザナレに帰れるとは、到底思えない。そのうち死ぬよ、あの子。だからお前が守ってやって欲しいんだ。わかったねトール。」
「事情は良くわかった。だけど、かあさんが心配だ。それにアザナレに着いたとしても、ソエルは凄い津波にあったって言っていた。ケセド様っていう人も死んでいるかもしれない。」
「トール、その時は、ここに連れておかえり。かあさんが自分の子としてあの子を育てるよ。もしも、トールがあの子を気に入ったって言うんだったら、あんたもいい歳だ。嫁子にすればいい。」
「変な事言うなよかあさん。一緒に行きずらくなるじゃないか!」
「そうかい、あんた、結構あの子の事、気に入っているんだね。よく見ると器量良しだし、素直ないい子だと思うよ。かあさんは。」
「やめてくれよ、かあさん。あの子をアザナレに返したらすぐにここに戻ってくるからな。」
「最後にトール、かあさんの近くにおいで。」そう言って、母親は強くトールを抱きしめた。
「かあさん・・・。」
「絶対に生きて戻って来るから心配なんかするんじゃないぞ。」といいながら、トールは家を後にした。
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