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「海辺の生活」
「おーい!ケセド爺さん。早くここに来て。早くしないと、魚逃げちゃうってば!」
「ソエル、年寄りはそんなに早く走れるもんじゃないんじゃよ。もっと気を使ってくれないか。」
「魚が逃げたら、ケセド爺さんのせいだからね。今晩のおかずはこれにかかっているんだから!まったく・・・」
ソエルは、まるで魚のように素早く泳ぎ、モリで魚を突く。ブロンドの髪と日焼けし浅黒く引き締まった身体は野生のネコを想像させる。ソエルは、もう3匹も魚を仕留めたようだ。一匹目は、マンドケ。二匹目はゴンドチ。三匹目はトテリカ。2人で食べるには十分な量だ。
「もう殺生はやめにしないか?2人で食べるのには十分な量が取れたようじゃから。」
「ケセド爺さん、殺生っていうのはやめてくれない?なんか悪いことしているみたいじゃん!あたしは、自分の命を守る為に魚を取って食べるの。それのどこが悪いの?」
「そうじゃな。自分の命を繋ぐ為には他の命を奪う事になる。それはしかたがない事じゃな。だが、自分の食べる分よりも多くは取っていけない。無駄に殺す必要はどこにもないからな。」
「わかったよ。今日はこれでやめておくよ。まったくうるさいんだから!」
ソエルは、マンドケをぶつ切りにして野菜と一緒に、鍋に放り込み、ゴンドチとトテリカを串に刺して、焚き火に立てかけた。
「ケセド爺さんは、トテリカで良かったよね。ゴンドチの方が美味しいけれど、少し身が堅いし、骨が多いからさ。」
「ああいいよ。トテリカの方があっさりしていて、食べやすいからな。」
「今日は星がやけに綺麗だね。空が澄んで来たから?」
「秋が近づいて来たんじゃよ。そうすると、空が澄んで来る。」
「ふん。そうゆうもんなの。なんか夏とは違う感じがしたからさ。空が高く見えるっていうかさ。」
「暦がなくとも、時の流れは空を見ればわかる。月の満ち欠け、空の気配などで、だいたいだがな。」
「秋って言えば、アケムスが取れる季節になるって事だよね。ちょっと楽しみ。あのおばけきのこの味って言ったら最高だもんね!」
「ソエル!アケムスは食べると笑いが止まらなくなるから食べてはならぬと、去年の秋に言ったはずだが、今年もまた証拠にも無く食べようと思っているのかね・・・」
「笑い死んでもいいから、アケムスは食べたいね。でもさあ、アケムスを食べるときに、ジュマンジの木の根を一緒に食べれば、笑いはおさまるって聞いたから、あんまり気にしてはないよ。」
「まったく!お前は何を考えているのやら。今度ひどい目にあっても知らぬからな。」
「はいはい。わかりました。アケムスはやめとくことにするよ。」
「ソエル、ご飯が済んだらすぐに寝なさい。もうじき日が暮れる。明日は礼拝があるから朝が早い。わかったな。」
「わかりました。日が暮れたら退屈だから寝ることにするよ。」
ケセドはソエルが部屋に戻るのを確認すると、焚き火の火を強めて、望遠鏡と星分度器を持ち出した。今年は星の配置がおかしな事になっていると、気がついたのは、春の辺りだった。太陽の黒点が目立ち、水星、金星、火星、木星、土星などの配置がよからぬ兆候を見せていた。その予兆が当たるかのように、今年の小麦は実の入りが少なく、不作だった。そして夏が短く、もう秋の気配がしている。例年なら盛夏の頃、だか今は、夜になるとコートが必要なぐらい寒くなってきた。
「明日の礼拝でこの話はもちださなければいけないだろう。」とケセドは思った。
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