船出

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船出

 トールは港から船を出した。今日は海風が気持ちがいい。 「あたし、船に乗るのは始めてなの!」ソエルは興奮気味にトールに話しかける。 「おまえは、海育ちなんだろ?なんで、船に乗った事がないんだ?」 「だって、あたしの生まれ故郷にはこんな乗り物なんてなかったから・・・。船を見たのも始めてなのよ!」 「それじゃあ、この旅は始めてづくしだな。」 「まず、村から出た事、船に乗ったこと、そしてケセド爺さんがいない事。一体ケセド爺さん今頃何をしてるんだろうかなあ?」 「多分、飯でも食っているんじゃねえか?気楽に考えろ、気楽に。」 「あんた、たまにはいい事言うわね!」 「ありがとよ。」 「あたし、おなかが空いたからなんか食べたいかも。」 「釣竿があるから、自分で釣って食え。」 「ええ!あたし、そんなもの使った事ないよ。モリかなんかない?モリでつくのは得意なのよ。」 「ほいよ。」トールはソエルにモリを投げた。 ソエルはモリを受け取ると同時に、海に飛び込んだ。 ソエルは眼下に広がる海の色に、我を忘れて見入った。銀色の魚の群れ。海草の茂み。 それは、ソエルが生まれ育った海とまったく違って見えた。 モリで魚をつくが、なかなか魚にモリが刺さらない。魚の泳ぐスピードがとても速い。 ソエルは魚の位置を把握するだけで精一杯だった。魚の群れの中に入って、一匹だけを、視線で追う。ソエルは息を潜めてモリで刺した。銀色の魚から鮮血がもれた。 「トール見てほら!魚取れたでしょ?」 「大したもんだ。自分のくいっぷちだけは、自分でなんとか出来るようだな。」 「そう?トールの分も捕ってきてあげようか?」 「いいや。おまえが潜っている間に、2匹釣ったから大丈夫だ。」 「トール、あたしにも釣竿の使い方教えてくれない?」 「いいさ。おまえの分も俺が釣ってやるから。」 「さっきと言っている事違わない?」 「ささいな事は気にするな。」
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