リョサヘイムへの道

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リョサヘイムへの道

 ティールとその一行はリョサヘイムへ向けて馬を走らせていた。リョサヘイムまでは西に2千キロ、約1ヶ月半の旅になるだろう。ティールは見たこともないリョサヘイムまで行かなければいけない自分の運命を呪いたくなった。その前に愛してはならない相手を愛した自分を呪わなければならないが・・・。  左手をふと見る。そこには希望があった。『変えられない未来などない。』その言葉を噛み締める。オレ一人だけが誓った、婚約の儀の証がここにある。どんなことがあろうともそれを守ればいいだけの事。もう二度とニフルヘイムには戻れないかもしれない、そしてあの女にも会えないかもしれない。リョサヘイムのティヘレト姫と結婚することになったとしても、政略結婚だったとあきらめればいいだけの事。兵力も弱く、土地も痩せたニフルヘイムはどう立ち向かったとしても、強力な軍隊と広大で肥沃な大地を持つリョサヘイムに勝つことは出来ない。この結婚でニフルヘイムの民が救われるならばそれでいいのではないか・・・  馬はあぜ道をひた走る。暑い。いつもは夏と言ってもこんなに暑くは無かった、今年はどうかしている。馬に乗っていると背中や顔、腕などが焦がされるような感覚に陥る。  一行は木陰を見つけて休む事にした。皆、暑さでひどく衰弱している。まだリョサヘイムまではかなりあるというのに、これではもちこたえることが出来ないのではないかと思う。 誰かが歌い始める。ニフルヘイムに古くから伝わる民謡を。 ニフルヘイムは、氷の大地 夏も避ける厳しい土地 険しい山に囲まれて、 四方を海に挟まれて 櫂の船も 翼の馬も 越える事が出来ない土地 ただ一つ越えることが出来るのは か弱い小鳥だけ ただ一つ越えることが出来るのは か弱い小鳥だけ その歌のリフレイン部分を繰り返してみる。  『ただ一つ越えることが出来るのは、か弱い小鳥だけ』・・・・皮肉なものだ、「かごの中の鳥」は楼からすら出ることも出来ないというのに、険しい山脈も、荒々しい海も越える事が出来るのはか弱い小鳥だけと言うなんて。  「ありがとう、やはり祖国の歌を聞くと元気が出るな。」とティールは歌い手に声をかけた。  歌い手は、「ティール様、光栄でございます」と頭を下げた。
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