だっこ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 友達の新居を訪ねて驚いた。  県外の大学に進学し、そのままそちらで就職、結婚、子供も生まれた。  そんな友達が十数年ぶりに、仕事の都合で地元に帰って来ることになった。  知らせを受け、引っ越しのゴタゴタが落ち着いたら会おうと約束をして、やっと迎えた今日という日。  奥さんと、一歳になる息子君を紹介されたのだが、その息子君が、どう見ても人間の姿をしていなかった。  サイズは確かに人間の赤ん坊くらいだが、赤ん坊どころか、この世に存在する動物とはかけ離れた姿をしている。  なのに友達夫婦はひたすらニコニコしていて、あろうことか、息子君を抱っこしてってくれと俺に言うんだ。 「だっこ。だっこ」  友達に抱きかかえられた得体の知れない生物が、俺に、手と触手の合いのこみたいな物体を差し出してくる。 「だっこ。だーっこ」  言葉は日本語だが、声質が絶対に赤ん坊じゃないその訴え。  ただニコニコしているばかりの友達夫婦の機嫌を損ねることなく、とうに過去の要求を突っぱねることができないか、目下必死に考え中! だっこ…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!