嘘つきなあなた

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 温子(あつこ)は、テーブルの向こうに座る二人を刺すように見ていた。  夫である浩紀(ひろき)と、妹である麗子(れいこ)。  ――いや、夫については「元」が付くことになる。  温子の鋭い視線が、まず麗子を貫いた。 「一体何人目かしらね、あんたが私のパートナーを奪うのは」  昼食後、かつ夕食前の時間のファミリーレストランは空いていて、温子の剣呑な言葉は他の客には聞かれていなかった。  麗子は長い髪の毛を指でいじりながら、 「えー? そんなの数えてなーい」  と言うと、浩紀のがっしりした肩に凭れかかった。 「お姉ちゃんのものって、何でか欲しくなっちゃうんだよねー。不思議ぃ」  あっけらかんとそんなことを言う実の妹に、もう怒りすら湧かなかった。先月、夫が「麗子と結婚したいから離婚してくれ」と言ってきたときから今までで、燃え尽きてしまった。  温子は40歳。麗子だって36歳だ。  子供だって、他人のものを盗ってはいけないことくらいわかるのに。  温子は視線を浩紀に向けた。  浩紀は気まずさなのか、開き直っているのか、視線を合わせようとしない。
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