『彼女の心臓が大変です』

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「じゃあ、なんで……?」  向かい側に座った羽木がどんどん身を乗り出してくるので、コーラの容器を救出してストローをくわえる。口の中で炭酸がはじけた。 ――おっと、そうだそうだ。今日のミッションの成功に密かに祝杯をあげようと思っていたんだっけ  僕は声には出さず「かんぱーい」と言って、紙カップをちょいともちあげた。ところが僕のカップを羽木が手で押しのけて、顔をズンッと近づけてきた。 「影が薄いんだよ、その子」 「え? 誰が?」 「だから、オレの運命の相手が、だよ!」 「意外だな。羽木は華やかなタイプが好きなのかと思っていたよ」  だけど「運命の相手」だなんて、よく恥ずかしげもなく言えるな。さすが羽木だ、と妙なところで感心している僕におかまいなしに、羽木は熱弁をふるう。 「目立たないけどすごく可憐だった気がするんだ。運命を感じたんだよ」 「可憐だった気がする? 印象が薄いにもほどがあるな。それなのに運命を感じたのか? その子とどこで会ったんだよ」  椅子を後ろに引いて羽木と距離を取り、コーラをズズッと吸い込む。 「もちろん相陵高校だ。その子は、スイカちゃんと手をつないで廊下を走っていた。おそらく心臓検診をうけるために!」  ブハッ!  僕はコーラを盛大に口から吹き出した。  え、ちょっと待て。心臓検診の時にスイカさんと廊下を走っていた子だって……?!
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