『彼女の心臓が大変です』

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 あの時、翼ちゃんはスイカさんに自分の代わりに心臓検診を受けて欲しいと頼んだ。もちろん、翼ちゃんがゾンビだということを説明した上でだ。  しかし、スイカさんは困った顔で、首を傾げた。 「確かに、もう最後の方だし、違うクラスが検診を受けているから、翼の事を知っている子は少ないと思うけど……」  残念ながら、二人はあまりにも似ていない。そのうえ問題はスイカさんの方にもあった。 推定身長百七十五センチで将来有望なハードルの選手のスイカさんは、とかく目立つ存在だ。陸上の大会でもらった賞状を、学校朝礼で改めて表彰されたことも一度や二度ではない。 つまり相稜高校でスイカさんはちょっとした有名人。スイカさんを知らない生徒も先生もいないのだ。  そして二人は僕を見た。  僕、身長百六十四センチ。五十三キロ。翼ちゃん、身長百六十一センチ、推定体重五十キロ。悲しいけれどスイカさんよりも僕の方がはるかに翼ちゃんに近い体型で、しかも影が薄い。おそらく僕を知っている他のクラスの子はいない。  結局、当初の計画通り、僕が翼ちゃんの影武者として検診を受けることになった。スイカさんは女装した僕の手を引いて走り、僕は羽木にぶつかった。  つまり、羽木が恋したのはたぶん……、僕なのかも。
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