『彼女のランチタイムが大変です』

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『彼女のランチタイムが大変です』

 ランチタイムは秘密のランデブータイムだ。翼ちゃんがゾンビになってからというもの、僕と翼ちゃんは昼休みに教室をこっそり抜けだし、理科室でお弁当を食べている。翼ちゃんは半ゾンビ食なので、みんなとお弁当を食べるのは気まずいらしい。  待ち合わせ場所の理科室には、人体模型や瓶に入ったホルマリン漬けの何かがあるから、お弁当を食べるには適していない。僕たちの他には誰も来ないはずだ。それでも念のために、ドアの前で素早く左右を確認した。 ――よし、誰もいない。あれ……?   僕は横開きのドアがわずかに開いているのに気がつき、ドアにかけようとしていた手を空中で止めた。 ――翼ちゃん、不用心だなぁ。あとで注意しておかないと。あれ? 中から誰かの声がする 「ねぇねぇ、翼のお弁当は生肉? さすがに人肉は調達が難しいもんね!」 ――この失礼な発言はスイカさんだ。確かにゾンビは何を食べるでしょうか? と聞いたら、十人中十人が人肉、と答えるだろう。だからと言って、ストレートに本人に聞くスイカさんは、少し配慮に欠けるぞ  ムッとして、ガラッとドアを引き開ける手に力が入る。 「あ、松本くんが来たー」  翼ちゃんがいつもと変わらない笑顔で手を振った。 「スイカさん、なんでいるの?」 「やだぁ、松本ってば、翼と二人きりのランチタイムを邪魔されたからって、あからさまに不機嫌って配慮に欠けるんじゃなぁい?」
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