『彼女のランチタイムが大変です』

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 翼ちゃんがタッパの中の指をピックで突き刺すと、床に仰向けに倒れ込んでいるスイカさんの横にしゃがみ、「はいっ!」と目の前に突きつけた。 「な、なーんだ。ウィンナーか。脅かさないでよ……」  スイカさんは差し出されたウィンナーを受け取り、ピックをくるくると指先で回してながめる。 「ほー、よくできているねえ……」  くすんだオレンジは、色が悪くなった人の肉の色だし、ご丁寧にも爪や関節まで彫ってある。切り口には、ケチャップを塗ってある。鮮やかな赤色が、血みたいだ。  翼ちゃんがゾンビ化してから数カ月。翼ママのグロデコ弁当は日々上達し続けている。 「だけど、なんで指にしているの? 普通にウィンナーでいいじゃない」  スイカさんの言うことはもっともだ。首を縦に振って同意を示す。僕も何度引っかかって腰を抜かしたことか……。 「ママがね、『翼はゾンビになっちゃったんだから、本当は人間が食べたいんでしょ? ガマンして偉いねえ。だから少しでもそれらしい気分が味わえるように、ママがんばる!』って作ってくれるんだ」 ――翼ママ、あなたもですかーっ! 「翼のママ、やさしいもんね」 ――いや、待て。そういう問題か?   スイカさんはパクリと指型ウィンナーを口に放り込み、「ンまいっ!」とうなずいた。
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