45人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
翼ちゃんがタッパの中の指をピックで突き刺すと、床に仰向けに倒れ込んでいるスイカさんの横にしゃがみ、「はいっ!」と目の前に突きつけた。
「な、なーんだ。ウィンナーか。脅かさないでよ……」
スイカさんは差し出されたウィンナーを受け取り、ピックをくるくると指先で回してながめる。
「ほー、よくできているねえ……」
くすんだオレンジは、色が悪くなった人の肉の色だし、ご丁寧にも爪や関節まで彫ってある。切り口には、ケチャップを塗ってある。鮮やかな赤色が、血みたいだ。
翼ちゃんがゾンビ化してから数カ月。翼ママのグロデコ弁当は日々上達し続けている。
「だけど、なんで指にしているの? 普通にウィンナーでいいじゃない」
スイカさんの言うことはもっともだ。首を縦に振って同意を示す。僕も何度引っかかって腰を抜かしたことか……。
「ママがね、『翼はゾンビになっちゃったんだから、本当は人間が食べたいんでしょ? ガマンして偉いねえ。だから少しでもそれらしい気分が味わえるように、ママがんばる!』って作ってくれるんだ」
――翼ママ、あなたもですかーっ!
「翼のママ、やさしいもんね」
――いや、待て。そういう問題か?
スイカさんはパクリと指型ウィンナーを口に放り込み、「ンまいっ!」とうなずいた。
最初のコメントを投稿しよう!