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黙って聞いていたスイカさんが、眉を上げた。いやな予感が夏の夕方の入道雲みたいにむくむくと湧きあがる。
「たとえばだけど。運命っていうのは、その女の子が実は男の娘だった場合にも有効なのかな?」スイカさんの目が輝いている。
「あの子が男の娘な訳ないだろ」
――アメリカンな感じで肩をすくめているけど、そのまさかですからー!
「たとえば、よ。ねえ、どうなの?」
「うーん。もしも男の娘だったとしても、運命だからな。俺は愛を貫くぜー!」
――いちず過ぎるだろー!
教室の天井照明に向かってこぶしを突き上げている羽木に、僕の心の中の絶叫は届かない。
翼ちゃんがケタケタ笑いだした。つられてスイカさんも笑い出す。
「なになに? どうしたの?」
羽木が笑い転げている翼ちゃんとスイカさんを交互に見る。この二人、おもしろがって羽木に僕が「男の娘」だとバラしかねない。
そうなれば翼ちゃんがゾンビだと芋づる式に分かってしまうかもしれないというのに。
「おい、松本。お前、運命の子が誰か知っているんだろ!」
羽木に肩をガシッとつかまれて、前後にゆさぶられる。首も頭もぐらんぐらん揺れる中、必死で「知らないよーっ!」と叫び返した。
「あの子は俺の運命の人なんだ!」
羽木がなおも言い募る。
「それは違うっ! 羽木。冷静になれ、羽木ー!」
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