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『彼女の目玉が大変です』
「絶対にヒミツだよ、松本君」
そう言って翼ちゃんは、くちびるに人差し指をあて、薄茶色の瞳で僕を見つめた。真っ白な頬が夕日に赤く染まり、そのまま空色に溶けてしまいそうにはかなげで、とてもとても綺麗だった。
ただうなずくことしかできなかったけれど、その時、心の中で誓ったんだ。
翼ちゃんの秘密と、失われてしまった「のんきでなんでもない日々」を守ってみせる!
♢♢♢
朝八時、二分過ぎ。
「うっぎゃーーーーーーーーーーーー!」
絹を引き裂くような僕の悲鳴が、朝のしじまを破って響き渡る。
僕は翼ちゃんの部屋の入口付近で腰を抜かし、ピンク色のラグに尻もちをついた。一瞬遅れて、相稜高校の制服のネクタイがひらっと浮き上がり、僕の額をピタンと打つ。
「松本君てば、ビックリしすぎだよー」
と言って笑い転げる制服姿の翼ちゃんは、今日もかわいすぎる。大きく開けた口から小さな八重歯がチラリと見える。薄茶色のサラサラの髪が、笑い声に合わせて肩の上で踊っている。
笑っている理由はともあれ、翼ちゃんの笑顔を独り占め出来る贅沢なこの瞬間……なわけだけれど、僕は翼ちゃんを直視出来ない。色んな意味で。
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