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「てめぇ……ふざけてんのか!」
やられた、と秋津は歯噛みする。
数秒前の迂闊な自分を殺してやりたい。よりにもよって、クソみたいな要求を今更。
ギリギリと歯ぎしりをしながら、鬼島を睨み付けた。殴られ、切れてしまった口元が悔しげに歪む。
「さぁな? まぁ、お前の要求は分かった、善処しよう。それで、俺は知りたい。お前のその高いプライドを持ってして、胡桃沢に関する情報は全て話せるのか?」
「なに……?」
「例えばだか……お前、胡桃沢で何度マスかいた?」
「は……?」
ニヤケ顔の鬼島の突然の質問に、秋津は思わずポカンと気の抜けた顔を晒す。
どうしてこの男は、こうも下の話にしたがるのか。
「痛めつけられようが、死を仄めかそうが、お前は抵抗の意志をみせ続けた。だから俺は話が進まねェと判断し、仕方なくお前の要求を飲むことにした。
だが、お前のそのクソたけェプライドが、俺の欲しい情報にノイズを入れるんじゃねェのか、って話だ」
暴力的な雰囲気から一変、鬼島は真っ直ぐ品定めするように秋津へ視線を向けていた。
「例えそれが、お前が胡桃沢の上に乗っていた時に聞いた話だとしても。その時の胡桃沢の表情、含みのある言葉と褥で使う甘言。
そのどれもを省かずに教えることが出来るのか、って聞いてんだ」
「……冗談だろ? 一々どんな抱かれ方してたかなんて、覚えてねぇぞ」
「例え話だ。……が、そうか無理か。なら、お前の要求を飲むのは止めて──」
「ッ、そうは言ってねーだろッ!!」
不味い。
秋津は咄嗟に出た言葉を後悔した。
これじゃあまるで、条件を飲むと言っているようなものだ。
「フッ、そんなに言うなら、行動に起こせばいいだろう、なァ?」
「こ、のッ……」
秋津の顎を掴み、鬼島がそれは楽しそうに言う。顎を掴む鬼島の長い指が、切れた口元をぐりっと擦った。
焼き付くような痛みが走る。
秋津が思わず顔を顰めたら、鬼島は満足気に笑っていた。
「さぁ、どうするんだ? 俺としては、お前を飼うのもまた一興だぞ」
ベッドの隣にあるローテーブルに腰掛け、鬼島は不敵に笑って言った。その笑い顔を、いつか絶対に殴ってやりたい。
余裕と傲慢さを感じる視線に、秋津は悪態を付く。
「クソッ……こんなこと、この一度だけだッ」
テーブルに腰掛ける鬼島の脚の間に膝を付くと、カチャカチャと慣れた手つきでベルトを外し、陰部を露出させてゆく。さっさと事を終わらせようと、秋津が鬼島の下着に手をかけようとした。
「おい、ただ出して終わりじゃァ、つまンねェだろうが」
「あ?……てめぇ、そっちの趣味でもあんのかよ」
「生憎、俺は両刀だ。それにお前、顔だけは綺麗なんだ、少しくらいは愉しませろよ?」
ガッと頭を掴み、自分の股間へと秋津の顔を近付けさせて誘う。秋津は舌打ちをしながら、鬼島の顔を見上げて様子を伺い。逃げられないと悟ると、まだ反応すらしていないソコに意を決して触れた。
下着越しの刺激を与えながら、再び鬼島の様子を伺う。余裕の表情を全く崩さない。
「ククッ、下手クソだな? お前、本当にアイツとヤってたのか?」
「ッ……なんで俺がこんなこと」
「仕方ねェ奴だな」
鬼島は秋津の手を取り、秋津の手ごと陰茎を扱いた。
徐々に反応してくる陰茎が、半勃ちくらいになると鬼島は手をどかす。
「おら、さっさと終わらせたいんだろ?」
「ッ……!」
身を焼く屈辱に、秋津の動きが止まる。
それでも、自身の自由身の安全の為、秋津は鬼島の陰茎を取り出し、口に含んだ。
殴られて、口の中にも傷が出来ていたが、秋津は痛みなど気にせず喉の奥まで咥えこむ。銃を喉の奥に入れられた時とはまた違った屈辱が、じわじわと秋津の心を支配した。
秋津の後頭部へと添えられた手が、いつ押さえ付けてくるかもしれないと、内心ひやひやしていた。
「ククッ、ハハ……」
「なひ、わらっへんらよ……ンっ」
「いや、プライドが高くてお綺麗な男が、必死に俺のモンにしゃぶり付いてんだぜ? 加害欲と支配欲が満たされるこの感じ、死ぬほど興奮する」
「ふ、ッん……かっへにいっへろ、げふやろうがっ」
「あー、可愛いもんだぜ、なァ?」
グッと頭を押さえ付けられ、喉の奥へと陰茎を突き立てられた。秋津がえずきながら、涙目で鬼島を睨み付ける。
それが、男を更に煽っていると知らずに、笑みを深める様子に腹が立っていた。
鬼島のモノから溢れ出す苦い先走りを飲み込みつつ、秋津は己の唾液を舌で塗りつける。
この男なら、昔の自分と同じような愛人の一人や二人はいるだろうに。プライドを折るためだけに、ここまでさせるのか。
秋津はワザとらしくじゅぶじゅぶと下品に音を立てながら、口の中でカリ首を刺激する。
そんなもごもごと動く口を、鬼島が褒めるように撫でてきた。何様だと睨み付ける秋津だったが、思いのほか雄の顔をした鬼島と目が合い、動きを一瞬止めてしまう。
「……お前、胡桃沢のイロは長かったのか?」
そう問いかけてくる鬼島に、秋津は眉を顰める。そして口から陰茎を出し、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「こんな時に他の男の話とは……随分と余裕があるみたいだな?」
言いながら、口から取り出したソレを、今度は扱き上げた。
「ッ、」
張り詰めた陰嚢を空いた左手でやわやわと揉み、右手で支えた陰茎の先に口で吸い付く。そして濡れた唇で、鬼島の亀頭を容赦無く刺激した。
グッと唸るような声が頭上から聞こえた。それに気分を良くした秋津は、剛直を再び喉の奥へと咥え込む。
「嫉妬したのか? 案外、可愛ところあるじゃねェか」
「嫉妬の意味を調べ直してこい、アホが」
じゅッと竿全体を吸い上げる。
ぐぽぐぽと上下に頭を激しく動かし、秋津は想定していたよりも必死に、鬼島を絶頂へと引っ張ってゆく。
自分を上位者として疑わない者を性欲で塗りつぶして、理性をぶっ飛ばす所を見るのが好きだ。どれだけ上品に振舞った所で、無様に快楽へ溺れる姿は滑稽だと秋津は思う。
相変わらずクズな思考が、鬼島の荒い息に寄って現実に引き戻された。この行為の終わりが近いことを悟り、鬼島の性器を喉の奥の奥へと突っ込んで刺激を与える。
「ッ、出す、ぞ……くっ」
「んぶ……ふ、ぅは」
口を離した瞬間、鬼島の膨れきった性器から白濁がぶちまけられた。生暖かい液体と、栗の木の花の匂いが秋津の肌を流れる。
「──はァ、はぁ、は、ふ、はははっ」
「てめぇ……殺すぞ」
息を整え、顔に掛かった精液を拭いながら秋津が毒づいた。絶対に飲んでやるかと、射精の寸前で顔を離したのが仇になった。親の仇でも睨むよう、不快な感覚と匂いに顔を顰めている。
何が面白いのか顔中に自分の精子がかかった秋津の顔を、鬼島は口元を抑えて笑い続ける。初めてこの男の笑った所を見た気がする。
「おい……風呂をかせ」
「く、ははっ、傑作だな……気分がいい」
「おい、風呂」
ひぃひぃと腹を抱えて笑う鬼島に苛立ちを募らせる。他人の精子まみれで。滑稽なのはどっちだ。
「ああ、言い忘れてたか、ここはお前の家だ。風呂くらい好きに使えばいい」
「は?」
何を言っているのかと、秋津は訝しむ。
もちろん、家なら秋津だって所有している。高層マンションは趣味ではないが、一応見栄の為に。
「……詳細を省くな、説明しろ」
「お前がお前の人質になれって話だ」
「……お前、クソだな。やっぱり、詳しい話は風呂から出てから聞く。お前の精子まみれで臭ぇから」
非常識の連続で、考える事を放棄した秋津は、ふてぶてしく風呂場へ向かった。
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