真摯な紳士

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真摯な紳士

 春の訪れとともに、私にもたらされた素敵な恋。  いま私は恋をしている。  しばらく振りにできた彼氏は、真摯な態度で、存分に私の心をつかんでくれた。  繋いだ手のぬくもりは、心の(ぬく)みとなり、安心感へと導いてくれる。  三つ年上の素敵な彼氏だ。  人に自慢できる恋なんてなかったし、辛い思いは嫌だと恋愛をさけてきてどれくらいたったろうか。  あまり言われなくなったけど、結婚適齢期というのはあるわけで。自分がそこに差し掛かっていることは十分に理解している。  そんな私にやってきた幸せだから、慎重にもなる。  そして、しばらく振りの恋は、なかなかの緊張感すなわちもあり、鮮度抜群のスタートだった。   「手をつなぎましょうか」  それだけでドキドキなんかしたりして。  ただね、真摯すぎる面が強すぎて、なかなか私を持て余す始末。  おつきあいを始めて二ヶ月もたつというのに、手をつないで見つめ合い、そしてお話しをする。  なんて健全な交際なんだっっ!  彼にとってもしばらく振りの恋愛らしいので、私同様に慎重らしい。  それはいいのだけれど、もうお互い大人なんだから、そろそろ、ね、いいんじゃないかしらって思うのよ。  車で送り届けられる私。  母と二人暮らしの私は、とある事情で迂闊に彼を招き入れられず、目前といったところでさよならをする。 ──お茶でも飲んで行って。  言えたらいいな、言えないな。繰り返し飲み込む言葉が沈黙を生み、やはりぎこちない。  それでも私の恋心と持て余す女心が、わざわざの沈黙を味方につけ緊張感を増幅させる。  助手席でうつむく私に聞こえてきたのは、シートベルトの外れる音。 ──え?  顔を上げると彼の手に私の頬が包まれる。 「キスをさせてください」  言うやいなや私の返事を待たずに彼とキス。  初めてのキッス! ──ぬあ〜、なんて情熱的!  お互いの荒くなった呼吸と感情が、窓ガラスを曇らせていく。  胸式呼吸が止まらない。  唇が離れると、恥ずかしさと愛しさとが入り乱れ、なんだか二人して笑った。  
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