屋敷

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屋敷

 中庭から、ウグイスの鳴き声が聞こえた。よたよたと中渡の廊下を歩いていた文彰は窓を見る。この別荘で、何回春を過ごしてきただろうか。強ばった関節を折り曲げるようにして、指で数える。  最近は頭でぱっと計算ができなくなっていた。指をイチ、ニ、サン……養子となった香園章太郎が倒れて3年。表舞台から退いた義父と一緒に、文彰は山梨の別荘に移住した。本当は東京にいたかったとか、本音を飲み込んで付いてきた。意見するのは許されないからだ。  息子は常に父親に絶対服従なのだと、長年、章太郎に教えられてきた成果か、文彰はますます意志薄弱となっていた。 「文彰様」 「……はい」  ぼんやりと中庭を見つめていたら、後ろから声をかけられた。座敷をまたぐようにして駆け寄ってきたのは若い男。二十代半ばの美しい顔立ちをした青年は、労るような笑みを浮かべていた。 「お父様がお呼びですよ」 「あぁ……はい……」  文彰の頭が丁度、青年の肩辺りにふれるくらいの身長差があった。バランスと取れた肢体と長い腕が理想的な青年に、肩を抱かれて歩き出す。冷たい春先を遮るような、温かい日差しが差し込んだ廊下を一歩一歩、踏みしめるようにして歩いた。 「先ほど章太郎様がお目覚めになられまして……息子に会いたいと」 「はい……」 「早く会いたいと」 「……はい」  隣でぺらぺら喋る青年に「はい、はい」と相づちを打つ。彼は香園親子が別荘に越してきたと同時に、章太郎が雇った「竿」だ。文彰の相手ができなくなったと嘆き悲しむ父親が、自分の「代わり」として連れてきた。健康的な肉体と、ハリのある肌。そして類い稀な美貌を持つ青年は、文彰を見つけると笑顔を見せてくれる。  章太郎から莫大な家政夫代が支払われているのだと、使用人達が台所でひそひそしていたのを思い出す。じゃないと、こんな年寄りに愛想を振りまくわけがないと、文彰は内心、自虐した。 「章太郎様」  父の部屋につくと、和室には大きな絹布団が1つあった。主治医が枕元でヒソヒソと、父親と何やら会話をしていた。 「おぉ……来なさい」  しゃがれた声は、かつて経団連会長として権勢を振るった男にしては、あまりにも弱々しい声だった。布団に寝たきりの状態で腕だけ持ち上げて、こっちに来い、来いと手招きをする。青年に背中を押されて、よろよろと文彰は近づいた。 「おぉ……ふみちゃん」 「……パパ」  枕元までくると、主治医が「今日はだいぶご体調も良いようですよ」と章太郎の体調について教えてくれた。脳梗塞で倒れて3年。発見が早く、重大な後遺症は残らなかったが、めっきりと章太郎の体が動かなくなっていた。眠っている時間が増え、時々目が覚めた時は文彰に「元気が出る余興」を見せろと呼び出すのが日課になっていた。 「ふみちゃんは可愛いねぇ」 「パパぁ」  ほとんど白髪になった髪が、白い枕の上で乱れていた。肌はたるみ、鋭かった眼光は落ち窪んで、かつて経済新聞のトップ記事に添えられた写真からは似ても似つかない。それでも文彰と目が合うと、表情が動いて、かつての役者のようだった精悍な顔立ちが見えてくる。  章太郎は手を伸ばし、文彰の頭を撫でた。 「文ちゃん、文ちゃん」 「パパぁ……」  よしよしと頭を撫でていた手が、文彰の頬に触れる。硬くなった皮膚と、ささくれの目立つ指。骨が浮き出た大きな手に胸が締め付けられた。素人の文彰は、章太郎の介護から遠ざけられていたが、それでもハンドクリームとか、体とかを洗ってやりたい。紛れもない親子愛だった。 「ぱ、パパっ、パパ、あの、あのね、体にクリームとか塗ってもいい?」 「おぉ、おぉ……それより、ふみちゃん。見せて」 「……」  章太郎の見せては、余興の合図だった。ちらっと隣を伺うと主治医は正座をして、神妙な表情をしている。彼をどこかにやって欲しい。口には出さないで目で訴えると「ギャラリーがいた方が、ふみちゃんは喜ぶだろう」と信じられないことを言ってきた。 「ぱ、パパ」 「ほらぁ、早く」  この屋敷では家長の言うことが絶対だ。オロオロしながら四十代くらいの医者を見ると、生真面目な顔付きで頭を下げられた。 「ご相伴させて頂きます」 「おぉーい、タオル、あとほら、いつもの持ってきてくれぇ」  しゃがれていた声は一転、肺から溢れたような大声で使用人を呼びつける。パタパタと「道具」を持ってきて、並べられる様子を、文彰は力無く見つめていた。医者は黙っているし、青年はニコニコと医療用手袋を嵌めている。  青年より笑顔の父親が「ほら、ほら」と文彰に指示を出し始めた。 「ここ、ここにね、四つん這いになりなさい。私の枕元が丁度、ふみちゃんの頭になるようにね、腕と足元にはタオルを敷きなさい」 「お手伝い致します」  畳の上に、タオルを敷かれる。章太郎の言う通り、頭が章太郎の上に来るようにして四つん這いになると「どうしたの」と不思議そうな声。 「いつもは裸になるじゃないか。今日はどうして脱がないの?」 「あの……ちょっと……」  いつも容体を聞く主治医に見物されるのが嫌だった。拒絶したくても、父親の言うことは絶対だと教えられてきた文彰はもごもごと口を動かすだけで、何もできない。俯いていると父親のはしゃいだ声がした。 「ふみちゃん、ふみちゃん恥ずかしがってるの? 可愛いねぇ、顔が真っ赤だよぉ」 「パパ……」  涙目で父親に許しを乞うが、笑うだけでいいよと言ってくれない。ずるずると、気持ちばかしスラックスを膝まで下ろして、四つん這いになった。 「失礼します」 「……ひぃ」  青年が後ろから容赦なく下着を下ろす。空気が尻に触れて、寒くないのに鳥肌を立てていた。 「ほら、ふみぃ、顔をよく見せなさい」 「……はいぃ」  しっかりと骨張った手が、しぼんだ老人の尻に触れる。医療用手袋を嵌めた指二本が、窪みをかき分けるようにして蠢く。まだ指も入れられていない状態から、文彰の両腕はぶるぶると震え始めた。  とろりと生暖かい感触と、タオルに落ちていくのはローションだった。濡れた指は確かめるように、何度か窪みを沿っていたが唐突に入ってきた。豊富なローションが、散々開かれてきた穴に染みこんでいく。 「ひぃぃんっ」 「おぉ、おぉ、どうだ? どうだ?」 「はい、文彰様はローションの吸収がいいので……凄い、どんどん入っていきますよ。継ぎ足しますね」 「ぉんっ、おぉんっ」  ぐぷっぐぷっと尻から卑猥な音がして、耳を塞ぎたくなった。父親から弟、そして章太郎が用意した竿を何度も飲み込んできた穴は、指を入れられただけで発情するようになっていた。ブルブルと震える老人の体が火照りだしていた。 「ふみちゃんが脱がないから分からないなぁ……どうなってる?」 「はい、お尻から腰の辺りが真っ赤になっています。文彰様はすぐに肌に出ますよね」 「おんっ、おぉんっ」  青年の指が第二関節まで入ると、ぐるりと中を掻き回される。腹の中をちくちくといじめられる感覚に、文彰は父親の顔の上で嬌声を上げていた。 「おしりっ、おっ、おしり、熱いよぉ、ぉんっ」 「どうなってる?」 「はい、指が今二本、根元まで全て入っております。入り口はすんなり入りましたが、中は最初、結構きつかったのでかき混ぜました。もっと柔らかくして、とろとろにしますね」   ずっ、ずっ、と指を突き上げるようにして出し入れをされる。指の緩急が激しく、尻の狭間から溢れ出すローションは泡だっていた。青年は「もっと柔らかくする」と言った通り、内壁を容赦なく犯し始めた。 「おなかぁ、お腹っ! 入って、くるっ!おなかぁっ!! 」 「ローションが直腸まで入って、文彰様がお尻を振ってます」 「あぁーーー!!」  どろりと一気に、中に流入する感覚に文彰は悶えた。でもこのまま倒れ込んだら、父親を押しつぶしてしまう。必死に耐えていると、父親がニコニコと笑みを深くしていた。さっきまで落ち込んでいた、黄ばんだ眼球には光が入り、頬も紅潮している。 『文彰が乱れる姿を見ると、パパは元気が出るよぉ』  言った通り、章太郎は体調が目に見えて良くなる。そのため屋敷の住人達は、一番広い部屋から聞こえる老人の喘ぎ声に、耳を塞いだ。喘ぐ文彰の口から唾液が滴り落ちていく。章太郎は顔に落ちてくるそれを、恵みの雨のように受け取った。 「今日は天外が遅いなぁ……渋滞かな?」 「章太郎様。文彰様のペニスが半勃ちです」 「おぉ、そうかそうか……あいつも来ないようだし、お前が入れてやりなさい」 「はい」  後ろでカチャカチャとベルトを外す音がして、文彰はぜぇぜぇと息を整えた。おそるおそる医者の方を見ると、こちらも勃起したペニスがスラックスにテントを作っていた。これでもし天外が遅れてきたら……三人を相手にするのかと絶望した。  老体になった文彰には、若い男を複数人相手にする体力は残っていなかった。 「ぱ、ぱぱっ、お、お願い――」  今日は一人にして。もう射精までできないペニスは、いつだって半勃ちの先からちょろちょろとカウパーが流れていくだけ。発散できない快感が体内を暴れ狂い、おかしくなりそうだった。 「……? おお、噂をしていれば」  遠くから言い争うような声と、バタバタとけたたましい足音がする。もう聞き慣れた乱暴な足音に、文彰は恐怖で足が竦んでいた。指で前立腺を押されて興奮していたペニスが、一気にしぼんでしまった。 「――おぃっ!!!」  襖を思いっきり開けたのは、香園家の末息子である天外だった。かつて経団連会長に就任した章太郎のように、雄々しい眼孔と整った顔からは自信が漲っていた。今日は青年会議所の打ち合わせだと言っていた堅めのスーツを乱した様子から、駆け足で別荘に来たのだろう。  尻を突き出した文彰を見た瞬間、眼が吊り上がった。  怯える義兄とは対照的に、天外は怒りで顔を赤くしていた。ドスドスと音を立てながら部屋に入っていくと、「竿役」の青年にシッシッと振り払った。 「俺が来たんだ。もうお前に用はない」 「失礼致します」  深々と頭を下げた青年が、ベルトを直す。普段、天外の足元に縋り付いたり土下座をする文彰は、四つん這いで、尻を晒したままの状態から動けなかった。体を動かせば、章太郎に怒られる。でも広がったアナルを見せたままでは、天外に襲われる。  がっしりとした手に両腰を掴まれて「ごめんなさいぃ」と謝罪していた。 「て、天外、ご、ごめんなっ、ごめんなさい」  だって父親が怖いから。父親に逆らえないんだ。父親が恐ろしいから、悪いんだよ――さすがに本人の前では言えず、体を震わせる。天外は馬鹿にしたように、鼻を鳴らした。 「もういいよ、あんたはいつだってこうだからな」 「……っ」 「天外、ちょうど話してたとこだったんだ。遅いなぁって」  父親の朗らかな声を無視して、天外がジッパーを降ろした。ぼろんと飛び出たペニスは血管が浮き、どす黒い。数え切れないくらい文彰の中に入ったペニスは、慣れ親しんだ場所を突き刺した。 「ぉおっ――」 「おいっ!もうグズグズじゃないか!! 本当はもう入れたんだろ!?」 「いいえ、入れておりません」 「ぁ、あっ、あぅぅっ」  まだ狭かった入り口をみちみちと押し広げる質量に、喉から何かが飛び出してきそうだった。若い頃の勢いだけだったセックスから執拗な、父親そっくりのセックスをするようになった弟に、文彰は声を上げた。 「あぁんっ、あっ、あぅ、お腹、おなかっ、いっぱいっ!!」 「やっぱりふみちゃんは天外だと違うねぇ……弟のおちんちんが好きだね」 「好きっ、す、好きですっ!」  ローションの滑りを借りて、はち切れそうだったペニスが奥まで突き進んで行く。最奥をエラの張った怒張で突かれるたびに、文彰は激しく腰を振っていた。背中は曲線を描き、激しく歪んでいた。きっとまた行為が終われば、体のあちこちが痛むだろう……目先の快感を拾うので、頭がいっぱいになっていた。文彰は我を忘れて、喘いでいた。 「おい……分かってるだろうな!?」 「分かってるよ」  快感に支配された兄は、目の前で交わされる父と弟の会話は聞こえていなかった。  
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