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プロローグ
私には、自分なんてない。
いつもいつも、親と周りに流されてばかりの日々。
まるで川の流れに逆らうことができない魚のように、意味のない日々を送っている。
嫌なことがあっても、それを吐き出せる人がいない。
常に周りの目を気にして、機嫌を伺う。こんな私を、私が一番嫌いだ。
明日、朝起きたら、私なんて存在しなくて、別の人として何もかも忘れて生きられたらどんなにいいだろうか。
部屋の窓から満月を見上げて、私はそれだけを強く願う。
毎晩意味もなく空に願い、朝起きて意識が覚醒するたびに落ち込んだ。
今日も普段と何も変わらぬ夜。
私はベットの上で眠りに落ちた。
そして次に、目が開いたとき。
私は私ではなかった。
別の人でもなかった。
見渡す限り、真っ白な世界。おそらくベットの上だと分かる。
明らかに狭い視野。手足の感覚もない。
……というより手がない。
「え、えっと?」
これは、翼だ。薄桃色の羽が集まってできている小さな翼。
ぱたぱたと動かすと体が宙に浮いた。
少しずつ、現実味を帯びてゆく。
鏡の前まで飛び、意を決して私は視線を上げた。
「………小鳥」
どうやら私は、鳥になってしまったようだ。
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