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真っ暗な部屋の中。電気をつける気力もないまま、美衣子はソファに倒れ込んだ。
疲れた、何もしたくないーー夕食を作る元気はないのに、冷蔵庫にしまってあるプリンを思い出した途端、甘いものをドカ食いしてしまいたい気持ちになる。
しかしその考えを頭から追い出すように、首を左右に大きく振った。
ダメダメ、その誘惑に惑わされたら私の負けじゃない。あと一週間、それだけは絶対に乗り越えなきゃいけないんだから。
美衣子は気持ちを奮い立たせると、服を脱いで長袖のジャージに着替えた。そして首にタオル、ポケットにスマホをしまうと家の外に出る。
あぁ、ムシムシする。でもとりあえず優ちゃんが帰って来る頃には家に戻らないと心配かけちゃうーー夜になっても夏の暑さは消えず、不快な汗が額にジワリと現れる。
夫の優樹が夕食を作る当番の日は、こうして一人でウォーキングをするようにしていた。
本当は食後にした方がいいのはわかっているけど、遅い時間だと優樹が心配するし、仕事で疲れた彼に一緒に行ってほしいとは言えなかったのだ。
ジムに行くほどの時間も元気はないし、とりあえず歩くだけでいっぱいいっぱいだった。
周りの景色も見ずに必死になって歩いているのに、鼻先を掠めるラーメン、焼肉、焼き鳥、たこ焼きの匂いに涎が出そうになる。しかしなんとかグッと堪える。
あのお店、前に優ちゃんと一緒に行って美味しかったな……この一週間を乗り越えたらまた行きたいな……そのためにも今は頑張らないと。
今日は月曜日ーー日曜日まであと六日。日数に換算するとあまりにも長いことに気付き、美衣子の足が止まってしまう。
あと六日もあるんだ……私、頑張れるだろうかーー心が折れかけ、とぼとぼと歩きながら、目の前に現れた公園の中へと入っていく。
街灯はあるものの弱々しく光を放っている程度で、園内にいる人の顔までははっきりと確認したは出来なかった。
端々にある数個のベンチに、中年の男性や若い子たちのグループが所々に座っていることだけはわかる。
美衣子はなるへ街灯近くの明るい場所にあるベンチに腰を下ろした。
この公園は優樹と初めて出会った思い出の場所で、二人にとっては特別な場所。いつもはここへ来ると不思議と元気になれたのだが、今日はなかなかそうもいかなかった。
どうしよう……ちゃんと間に合うのかな……不安に押し潰されそうになって涙が出て来てしまう。
その時だった。
「やっと見つけた」
声がした方を見た美衣子は、驚いたように目を見開いた。そこには、息切らし、スーツのままの優樹が立っていた。
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