最後の嘘

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「私さ、彼氏出来たんだ。お前はどうなんだよ?」  夜勤を終えた私達は帰宅途中だったが、満開の桜の並木道に思わず足を止めていた。  見上げたその先には広がる青空と太陽があり、それは寝不足な目に強く染みる。  いつもなら逸らすが、今日はしない。  その方が、都合が良いからだ。 「え?」  私の話に間抜けな声を出すのは、職場の後輩である斉藤(さいとう) 健太郎(けんたろう)。  五つ年下で二十五歳のこいつは、バカ真面目で優しく、そして相手に気を使い過ぎて自分を軽んじているバカヤロウだ。  ……そして、そんなヤツを縛りつけてしまった私は、大バカヤロウだろう。 「本当ですか?」  気遣いの声をかけてくるこいつを、納得させなければならない。  だから私は、嘘を吐く。  今日だけは良いよね?  だって今日は、一年に一度嘘を吐いて良い日なのだから。
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