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蜂蜜の海
「⋯美梅ちゃん、ごめん。俺、すげーキスしたい」
知らず、口をついて出た。途端、また猛烈に悩みの渦に入り込みそうだった。
「ええっと⋯、まだ手も繋いでないし、何か俺、気が高ぶってんのかな。ちゃんと順番守って、性交同意書にサインをもらった上で、きみの両親にも親の確認を取ってから、だから、まだ早いのは分かってるけど、ああ、なんかまとまりつかない。とにかく、今言ったことは一旦白紙にして、今は美梅ちゃんの心のケアを優先して⋯⋯」
しどろもどろになっていると、彼女は少し離れ、俺の瞳をじっと見つめた。
「十川くん」
ちょっと苛立ちが滲んでいるような、それでいて優しさが込められているような。
「余計なこと、悩みすぎ」
ふわっと甘い香りが立ち、俺の唇に柔らかいものが触れた。この顔の近さと濡れた一部分。キスを交わしている──そう認識するのに時間はかからなかった。
でも、何だかとても癒されていく。
大好きな彼女の匂いが俺を満たし、まるで蜂蜜の海で二人きり泳いでいるようだ。
そして唇を離した彼女は言った。
「十川くん、大好きだよっ!」
おわり
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