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不穏な朝にそれは起きた
白い朝陽が射し込んでくる昇降口に入ると、誰だろう、良くない話が聞こえてきた。
それらは口々に、「横槍先輩が来てるよ」と言っている。
その人は地元の半グレ集団のリーダーで無類の女好き。特に好むのはカレシがいる女子を手籠めにすること。俺が知る中でも、二人の女子がひどい目に遭わされたらしい。性的な被害があったかどうかは伏せられているが、身体的暴力を受けたのは間違いないそうだ。俺は嫌な予感に染められていく。
美梅ちゃんは今、俺というカレシがいる。
横槍先輩の標的となるには、容姿しかり、知名度しかり、条件が整い過ぎている。
上履きに履き替えながら、暗い気分になった。もしも横槍先輩が美梅ちゃんに手を出そうとしたときは、この命に代えてでも⋯。
「十川くん、おはよ」
声が聞こえ、振り返ると、光を背負う美梅ちゃんが立っていた。何にも憂いのない顔で微笑みかけてくれる。嬉しさと気恥ずかしさと、横槍への疑心で、俺はいつものテンションを保てなかった。
「おはよう美梅ちゃん。今日も昨日よりかわいいね。どこまでかわいくなるんだい」
言うと、顔を真っ赤にした彼女。もじもじと手を遊ばせて、俺を上目遣いで見つめてくる。
「それ、いつも言ってる。昨日よりかわいいって、すごく嬉しい。恋をしてるからだよ」
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