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本気の一撃
朝の学校で、人目につかない場所を検索する。
中庭は園芸部員がいるだろう。体育倉庫は運動部員の目につく。どこかの教室も考えたが、横槍は校舎裏の方へ彼女を引っ張っていった。となると、かつて中庭があったという通称『裏庭』が解となる。あそこなら朝は先生たちすら入らない完全な空白領域だ。悲鳴を上げたとしても気づかれにくい。よし、行くぞ!
上履きが唸る。最短ルートで負荷をかけているせいだ。壁スレスレを走り、曲がる際にはその壁を利用する。全身をくまなく使い、裏庭へ、花壇越え、駐輪場を越え、裏庭へ、何やら動く影が見えてきた! それは、もがく美梅ちゃん、そこに覆い被さる金髪ドレッドヘア!
「だあああ──っ!! 美梅ちゃあああんっ!!」
金髪が振り返るより先に、そいつの顔面に膝蹴りを叩き込む。
まだだっ!
起き上がられては勝ち目がない。弾け飛んだ金髪の頭に俺渾身のパンチを撃つ。
何の罪に問われたって恐れるもんか!
こいつの脳が再起不能になるまで殴れ!
報復など考えられないぐらいに致命傷を負わせっ!
「十川くんっ!!」
きんと響く声に、血濡れた拳が止まった。見ると、美梅ちゃんが涙を落としている。
「死んじゃうっ! そんなにしたら殺しちゃうよぉぉっ!!」
うぐ、と躊躇いが生まれた。
俺の大切な彼女に危害を加えようとした男。それだけでも殺すには十分な理由なのに。
俺はまた、無用な考えに立ち止まってしまった。
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